この作品は私にとって特別な作品です。
それまで多くの戦争映画は観ていましたし、
反戦メッセージが強い作品、アクション・スペクタルがメインの作品、歴史ドキュメンタリーの色合いが濃いものなどなど、
いろんな視線で描かれていました。
しかし、
それらの作品は心に訴える作品もあったりしましたが、
どこか自分の外で起こっている出来事だったのです。
しかし本作は、
初めて私自身を戦場の中に送り込んだ作品でした。
ペンシルバニア州の山間に住む、
鹿狩りが好きな仲間たち4人組。
みんな普通の若者。
等身大の若者。
その4人がベトナム戦争に徴兵される。
戦場の最前線で起こる地獄の体験。
精神の我慢の極限を突破してしまい廃人になってしまう。
3時間を超えるこの作品で、
間違いなく私は戦場にいました。
半身不随になってしまった若者、
薬に溺れて身を滅ぼしてしまう若者、
追い込まれて見境なく敵を撃ち殺してしまう若者、
すべて私の目の前で起こっていました。
テレビのバラエティ番組の罰ゲームで行われる定番の、
『ロシアン・ルーレット』。
私はこの作品での体験が強烈すぎて笑うことができない。
この作品の評価として、
敵を悪魔にしすぎたとか、アジア人種蔑視の視点が見られるとかいう意見が散見されるが、
この作品のテーマを鑑みれば的外れの批評だ。
普通の若者が地獄の戦場に送られることの悲劇。
政治家は誰一人戦場に立たない。
サイドストーリーとして主人公(ロバート・デ・ニーロ)の親友の妻(メリル・ストリープ)に対する恋心が描かれているのが、
より物語を身近にし哀しみが増幅する。
この作品がターニングポイントとなり、
観客が戦争を体験する作品が多く作られる。
(製作開始は「地獄の黙示録」の方が早かったが数々のトラブルにより公開は本作より後になった)
『フルメタルジャケット』や『プラトーン』は代表作であり名作だ。
いずれも強烈な作品であるが、
初めての戦場体験だった本作の強烈な印象には及ばない。
ラストで合唱される、
「God Bless America」でこの作品のテーマが決定的になる。
ただ、
戦争映画のBEST10を挙げるとなると、
この印象通りにはならないところが映画芸術の深いところであり面白いところだと思う。
私の戦争映画BEST10は以下の通り。
『ディア・ハンター』The Deer hunter 183分
第51回アカデミー賞
- 作品賞
- 監督賞 マイケル・チミノ
- 助演男優賞 クリストファー・ウォーケン
- 音響賞
- 編集賞
印象的なジョン・ウィリアムズのギター『カヴァティーナ』
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