tepoさんの5周年企画に参加中。

気になる方は最初からお楽しみください。

4月15日 20:00スタートです。

 

 

 

 

 

 

❤︎3

 

 

「あ!そのキャビネットは寝室のベッドの横で…」

 

引越し業者の兄ちゃん達を従えて廊下を進むと

左側の寝室のドアを開ける。

 

そして…

 

「えっと…ソファーはこっちね…」

 

リビングに移動して窓際を指差した。

 

 

マンションの下の階が空いているから

一度見においでって翔君に言われて

見に行ったその日にそこへ引っ越す事を決めた。

 

不動産屋と契約を交わしてから翔君に告げると

 

「えっ?マジ?

他は?見に行かなかったの?」

 

予想通りのビックリ目玉の翔君に

「うんうん」と頷いて見せると

 

「マジかーーーっ?!

え〜〜〜っ!ホントに?!

いつ?いつ引越して来んのっ?!」

 

抱きつかんばかりに喜んでくれて

流石の俺も勘違いしそうになって顔が綻んだ。

 

 

「陽当たりが良くてベランダから緑も見えるしさ。

近所にスーパーも在るし!

翔君と同じマンションだったらセキュリティもバッチリな上に

マネージャーだって迎えに来んの楽じゃん?」

 

 

皆んなにはそう言ったけど本当は…

 

 

引っ越す前に部屋の寸法を測りに行くと言ったら翔君が

 

「俺も手伝おうか?

午前中だったら大体空いてるし」

 

「いいよ、いいよ。

翔君 忙しいんだしさ…」

 

「いやいや…大丈夫だって!

だってメジャーの先っぽ持つ人が居ないと部屋測れなくね?」

 

まぁ…確かに…

 

って事で

結局 五人揃っての収録の前に俺が借りた部屋で待ち合わせをして

二人で測ってからマネージャーにピックアップして貰う事にした。

 

「へぇ〜…やっぱり上下だから同じ間取りなんだね。

なんか不思議な感じだな…」

 

初めて入った下階の部屋に翔君がキョロキョロしながら

俺の後に続いて廊下を進む。

 

「やっぱそうだよね?全く一緒?」

 

この前見せてもらった翔君の部屋が頭に浮かぶ。

 

「うん。一緒だよね。

まぁ俺ン家は家具が入っててカーテンとかも掛かってるから

雰囲気はちょっと違って見えたと思うけど」

 

初めて訪れた翔君の部屋。

その時に見せて貰った部屋の様子が

俺の脳裏に刻み込まれた。

 

翔君ン家のリビングのソファーも

あの窓際だった。

 

テレビはこっちの壁の この位置で

パソコンが置かれていたダイニングテーブルはここ…

 

パソコンかぁ…

 

俺はパソコンは持ってないから…

そうだ…ここで絵でも描こうかな…

 

引越し屋の兄ちゃん達が帰ってから

部屋の中をザッと片付ける。

 

自分で作ったフィギュアや画材、釣りの道具とかで

荷物は多いけれど日常生活に必要な物は

最低限しか持っていないから

その日のうちに何となく形は整った。

 

慣れないシャワーと格闘して

埃っぽい身体がさっぱりすると

コンビニで買った豆腐とサラダで

簡単に夕食をすませた。

 

疲れた身体をベッドに横たえると

組んだ腕を枕にして仰向けのまま白い天井を見上げる。

 

翔君は…まだ帰ってきてないのかな…

 

見上げた天井の上には翔君のベッドがあって

当然の事ながら いつもそこで翔君が寝ているはず…

 

これからは…

翔君と同じ場所で寝て…

同じ場所でメシを食って…

同じ場所で寛いで…

 

それって…

何だか…一緒に暮らしてるみたいだな…

 

「………。」

 

…って!

何考えてんだよっ!

 

自分で自分に突っ込んで

モゾモゾと横を向いて目を閉じた。

 

 

新しい部屋で新しい生活が始まると

意識しないようにしてるのに

ふとした瞬間に上の階が気になってしまう。

 

深夜にかすかに聞こえるドアの閉まる音…

パイプスペースから聞こえる水の流れる音…

フローリングの床を引きずる椅子の音…

 

翔君の気配を感じたくて

気がつけば耳を澄ましていた。

 

今日は…

天井を見上げて意識を集中してみても

何の物音も聞こえてこない。

 

まだ帰ってないみたいだな…

 

壁の時計をチラッと見る。

 

もう1時を過ぎているから

飲みにでも行ってんのかな?

 

明日の仕事を考えると

俺もそろそろ寝なくちゃいけない時間なのに

もう少し待ったら翔君が帰ってくるかもしれないと思うと

なかなか寝る気になれなかった。

 

壁の時計をチラチラ見ながら

落ち着かない時間を過ごす。

 

そろそろ本当に寝なきゃヤバいな…

もしかしたら泊まりなのかもしれないし…

そう自分に言い聞かせてリビングの照明を消した。

 

トイレを済ませて寝室のドアノブに手をかけると

突然 廊下の先の玄関ドアが

ガチャガチャと乱暴に音を立てた。

 

ギョッとして寝室のドアノブに手を掛けたまま

玄関ドアを凝視する。

 

だ、誰?

 

暫く見つめ続けても何の物音もしない。

 

き、気のせいだったかな?

このまま布団を被って寝ちゃおうか…

でも…

気になって眠れそうもないし…

 

ドアノブから手を離して抜き足差し足で玄関に向かう。

 

玄関ドアを前に立ち尽くしていると

またもガチャガチャと大きな音が響いた。

 

ま、まさか開いたりしないよね?

 

ど、どうしよう?

 

 

 

  a 玄関を開ける 

 

  b 覗き穴から覗く