ネットサーフィンしていたら、こんな情報を見つけました。

年間20万人近くが来院し、数千件の手術を行っている大規模眼科病院の業務分析、業務改善改革とそれを踏まえたシステム化を長年指導してきた経験から、この情報につきコメントすることにしました。

 

まず最初に理解しなければならないのは、緑内障は人間でも完治する病気ではなく、いわば不治の病であるということです。眼圧を下げる手術、目薬、レーザ―治療など、症状の進行を遅らせ、何とか見える状態を寿命が尽きる頃まで保つという治療法、手術はあります。医師は患者さんに、その辺を説明しますが、手術をすると見え方が改善されるに違いないと期待してしまう患者さんが少なからずいるのが実状です。白内障手術と一緒に緑内障手術(眼圧を下げる手術)を施行した患者さんが、良く見えるようになったという場合もありますが、これは緑内障の手術の効果ではなく、白内障手術の結果です。この辺を勘違いして、緑内障の手術をやって良く見えるようになったと周囲に話す患者さんがいるようですが、注意しましょう。

 

人間でさえもこの状況、獣医師と会話ができない犬はどのようにして症状を訴えるのでしょう。検査機器を操作する際、人間の患者を相手にするように『もう少し上を見て』、『じっとして動かないでください』とか『瞬きしないで』と言っても、その意味を理解できないのだから、できるはずがありません。

以前、投稿した犬の白内障手術に関するブログ(クリック)には、多数のアクセスがあり、今も続いています。愛犬家の皆さんが参考にしているものと思いますが、upした2019年1月から今までにアクセスされた件数は2万近くになります。人間の眼科医並みの教育訓練を受け、指導医がついて研鑽を積み、具体的な処置(手技)ができる獣医師が育ち、熟練した検査員が育つことを期待しますが、多分現実的ではありません。例えば、急性緑内障の場合の治療プロトコルは以下のとおりですが、これを専門的な教育、訓練を受けていない獣医師、スタッフたちができるかどうか?
~~~~ここから~~~~
疾患名:急性閉塞隅角緑内障
緊急度:高
問診のポイント
・自覚症状(眼痛、頭痛、視力低下等)の有無と発現時期
検査
・眼圧
・細隙灯顕微鏡検査
・隅角鏡検査
・角膜内皮細胞検査
・未散瞳下眼底検査
時間的余裕があれば、
・視力
・UBM
・視野
所見のポイント
・隅角閉塞の確認(他の眼圧上昇疾患の除外するため)
・角膜浮腫の程度(LIが可能であるか判断するため)
治療
・LI(レーザー虹彩切開術)による瞳孔ブロック解除が根本的治療法。
・LIの前に眼圧を下げて角膜浮腫を軽減(高浸透圧薬、ピロカルピン点眼、炭酸脱水酵素阻害剤投与)。
・角膜浮腫の軽減が不十分であり、角膜内皮への影響が考えられる場合は、虹彩切除術を検討する。

~~~~ここまで~~~~

 

術前、術中、術後のプロセスがありますが、広く浅く全科を診なければならない獣医師、スタッフに、このような眼科領域を専門とする医師、検査員並みの専門知識、経験を期待できないと考えるのが、全国屈指の眼科病院で業務分析とシステム化をやってきた実務経験からいえることです。

 

緑内障に限らず、自分で症状を訴えらず、黙って我慢している愛犬をみると何としてでも治してあげたいと思うのが、犬を家族と思っている飼い主の心情。法的な問題があるかもしれませんが、患者である犬との会話はできないものの、経験豊富な眼科医に診察、手術してもらった方がマシではないかと思うこともあります。

 

検査もそうです。緑内障の検査で代表的なハンフリー検査を例にとります。

この検査機器を使って得られるのが、以下の結果(知人の検査結果)です。

この検査では、患者に『中央のオレンジ色の光を見ていてください』と検査の要領を説明します。次に『覗いている画面上の色々な位置に明るさの違う光が出るので、光が見えたらブザーを押してください』と言います。視線や顔を動かすと誤差を生じるので、『動かないでください』とお願いしますが、検査時間が20分前後もあるため、静止状態を保つことが難しく、途中で休憩することもあります。オレンジ色の光への注視がブレると、この検査結果のコメントのように『信頼係数低い』と書かれることもあります。犬は全て『信頼係数低い』になってしまうでしょう。最初に掲げた『中央のオレンジ色の光を見ていてください』と言っても犬には理解できないし、『光が見えたらブザーを押してください』と言っても押せないので、何か言われていると思った犬は『ワン!』と吠えるか、尻尾をふるくらいしかできないでしょう!犬用の眼機能検査機器があればいいのですが、残念ながらありません。これを考えても、人間ではない犬には緑内障検査、診断、治療が難しいことが理解できるでしょう。ハンフリのような自覚的検査はもちろんですが、患者と対話をしないで済む他覚的検査でも動いたりする犬相手では難しいと思います。

 

ミケランなどの点眼薬程度ならやっても良いとは思いますが、そもそも緑内障という診断、それにその進み具合の判断を如何にしてやるのか?診断を信用できるのかどうか?眼科医ほどの臨床経験はないし(そもそも臨床の機会が少ない)、眼科医のような育てる環境も手術の訓練環境も整っていない中で、どうやって研鑽を積み、実際に治療、手術にあたるのでしょう?獣医学部を持つ大学と提携して治療実績を上げているとする動物病院もあるようですが、治療実績があるとする根拠は何でしょうか?緑内障の場合、MDという同年齢の正常者と比較した視野の欠け具合を表した数字があり、緑内障が悪化/現状維持しているかどうかの指標に使いますが、会話ができない犬を相手に如何にしてこの値を測るのでしょう。犬は何も言えません。飼い主の自己満足では犬が可哀想です。

 

参考ブログ
・愛犬をがんで失わないために/血液検査結果の見方⇒クリック
・獣医から『好きな物を食べさせてください』と言われた時⇒クリック
・愛犬の白内障手術は止めた方が良い、可哀想(その1)⇒クリック
・愛犬の白内障手術は止めた方が良い、可哀想(その2)⇒クリック

 

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