高齢化は人間だけではなく、犬でも同じく高齢化傾向にあります。

栄養バランスの良いドッグフードの登場、動物病院受診率向上などがあるからでしょうか。疾患が出る前に亡くなってしまっていたものが、長生きするようになってきた分、それまで出なかった様々な疾患が顕在化してくるようになりました。高齢化によって顕著に表れる症状の一つに白内障があります。

犬友達の皆さんの愛犬の中にも目が白濁し始めている子がいます。白内障の手術是非が話題になることもあり、今年の最初頃に愛犬の白内障手術は止めた方が良い、可哀想!というブログ(クリック)を書きました。反響は大きく、既に一万アクセスを超え、今でも毎日参照されています。何ヶ月か前にこのブログを愛犬家FBグループで紹介したところ、獣医師からクレームがありました。簡単に言えば、獣医でもない病院コンサルタントなのに専門的なコメントをする資格はないというものでした。この獣医、犬の白内障に関する治療、手術経験を持っていれば、その成功率、改善傾向、効果などを示し、安心して受診、手術して欲しいと反論すべきですが、そうではありませんでした。多分、獣医の領域を犯されたというプライドからくる単純な理由のクレームだったんでしょう。この獣医に対しは、FBグループのブログ上で術中の手順の話をもう少し詳しく書いて返信しておきましたが、残念ながら応答はありませんでした。 

ひょっとしたらこの獣医は、コンサルタントという職種に疑問を持っていたのかもしれません。それはやむを得ない面があります。コンサルタントは一般的に、現場や実務を知らない教科書的なアドバイスか、わずかな経験、見分を普遍化したり、針小棒大にして言葉巧みに机上の空論を展開する評論家が多いからです。しかし技術士(クリック)という職業は、現場経験がなければ取得できないものであると同時に、クライアントの現場に深く入り込んで観察し、業務を知り、分析し、改善点をみつけ、場合によっては業務プロセスを根本的に変える(BPR)こともやってのける役割を担っています。前回の犬の白内障手術のブログ(クリック)は、外来患者数、手術件数共に全国屈指の眼科病院のクライアントを長年に亘って現場に入り、コンサルしてきたなかで知り得た手術を含む知識、業務プロセスをシステムに乗せてきた経験から言えることを書いたものでした。結論としては、効果が確認できない手術のために愛犬を怖い目、痛い目にあわせたうえに、高額な手術費用を払うことになる犬の白内障手術は止めた方が無難というものです。患者が人間なら、手術後の見え方につき、手元が見えるようにしたいのか、遠くが見えるようにしたいのかを聞き、眼内レンズを選びます。現状の見え方につき、自ら表現できない犬を相手にした視力検査はどうするか?犬は言えないので、飼い主に聞くことになります。しかし、飼い主でも犬の見え方を表現しようがありません。飼い主は、愛犬のために良かれと思い大枚はたいて行った手術の結果、痛い思いをさせたうえ、度の合わない眼鏡をかけクラクラしている状態になる可能性があることを承知しているのでしょうか?また、獣医はそのような説明をしているのでしょうか?

今年一月のブログ(クリック)では、手術に入る前に必要な術前検査のパスを紹介しましたが、クレームをつけてきた獣医はこれを見て、人と犬との手術の違いを理解して欲しかったのですが、それができない程度の方だったのかも知れません。そこで、今回は人間の白内障を手術する際の手順、参照すべき情報などを紹介し、医師、看護師、検査員と会話できる人間の患者ではなく、獣医と会話のできない犬の白内障は止めた方が無難だと思ってもらおうと考えた次第です。

下の画面は、電子カルテを含む院内統合情報システムを開発した際に作った手術時の画面です。

左側に手術時に必要になる情報を表示し、術者(執刀医)は、手術台横にあるこの画面をみることで、その都度カルテを見たり、介助看護師に確認しなくても済むようにしています。どの様な手術シーンで、どの様な情報を参照・確認する必要があるかは、経験豊富なオペ室の手術担当看護師が原案を作り、医師を含む関係でデザインレビューしてから画面にレイアウトしました。画面でなくても紙ベースでも構いませんが、犬の場合、ここにはどんな内容が記載されるのでしょうか?画面右側は、術式毎に決まっている手術の手順(白内障手術の場合)です。術中には予期せぬことが起き、標準手順から外れるバリアンスと呼ばれる場合が起きることがありますが、起きても対応できるようになっているのは言うまでもありません。紙ベースの場合は下図に示すように手術記録表(角膜移植、網膜硝子体手術の場合)に記入していました。

眼科医は実際の手術をする前に、とんがんと呼ばれと殺場からもらってくる豚の眼を使って十分な手技の訓練を積みます。オーベンと呼ばれる指導医、上級医が、人間の患者を相手にできるレベルに達したと判断して初めて手術に臨みます。手術にはオーベンがつき適宜支援したり、隣の手術台でベテラン医師が手術するようにしていて、何かあった時には応援に入れる万全の体制が採られます。患者が人間である場合には、ここまでやっています。人間の場合をそっくりそのまま犬に当てはめることは適当でないかもしれませんが、犬だからと言って手抜きして良いことにはなりません。逆に、物言わぬ(言えぬ)犬だからこそ、より丁寧に診なけばならないのではないかと思います。

以上紹介してきましたが、もちろん、それでも手術するという方がいても引き留めることはしません。手技が上手で、奇跡的に眼内レンズが適合する場合があるかも知れないからです。しかし、本当の愛犬家だったら思い留まることを期待しています。早期に気付き、進行を緩やかにする点眼薬を処方してもらい、寿命まで何とか視力を保つ緩和治療が現実的ではないかと思います。友人の眼科医は愛犬に人間用の目薬を差していました。

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