黒犬伝 その18 (前編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

黒い北海道犬アクは、16歳の老犬になっていた。


アクは、前年散歩中に心臓発作を起こして倒れてから本能的に身体を庇って無理しないようにしているようだった。


他の犬に喧嘩を売られても極力無視していたが、老犬相手に喧嘩を売って来る犬も少なくなっていた。


最もアクが老いるまでに自分の縄張り内から野犬達はアクを恐れて逃げ出していたし飼い犬もアクには頭が上がらない状態だったのでアクは、比較的のんびりと老後を過ごしていた。



西山キャンプ場がまだ只の山林だった頃おれは、そこへ行ってアクを放して遊ばせる事を習慣にしていた。


秋も深まったある日の夕方 おれとアクが、その山林に行くと突然アクが低く唸り始めた。

この唸り方はかなり警戒している。


アクは、おれに「気を付けろ」と言っているようだ。


おれは、前方の雑木林の木々の間に目を凝らした。


確かに何か居る。

何かがゆっくり動いている。


アクは、唸るのを止めると同時にその何かに向かって走り出した。


リードを着けていないアクは、木々の間を縫うように走り抜けてそれに近付いて行く。


おれは、胸騒ぎを感じてアクの後を追った。



後編に続く