黒い北海道犬アクは、15才の老犬になっていた。
老犬とは言えアクは白髪も少なく歯も丈夫だった。
さすがに こちらから喧嘩を仕掛ける事は、避けるようになったが向こうから仕掛けて来た時は、降り懸かる火の粉を払うだけの体力と能力は、残っていた。
ある春 小雨の降る日の夕方 おれとアクは、竹薮と竹薮の間の道を散歩していた。
この道は、夕方になると殆ど人通りが無くなるのでおれは、アクのリードを外して歩いていた。
アクは、歳のせいで扱い易くなっていたので何かあれば直ぐに捕まえる自信もあった。
この日のアクは、何処となく元気が無かったがリードを外してやると10m位前を歩いていた。
突然前を行くアクの歩く速度が落ちた。
そしてそこから数m歩いた所でヨロヨロと体勢を崩したと思ったらバタッと横倒し状態になった。
自分では、歩いているつもりなのか脚だけフラフラ動いている。
「アク!」これはヤバい。
おれは慌ててアクの所へ走った。
10mの距離を駆け寄る短い時間におれの脳裏にこれまでのアクの様々なシーンが次々に浮かんでいた。
横倒しのアクは、薄目を開いていたが意識は無かった。
おれは直感でアクの心臓が止まりそうな事を察した。
おれはアクの胸部を両手を重ねて強く断続的にマッサージした。
「アク!しっかりしろ!」
おれは必死でアクに呼び掛けていた。
後編に続く