猛毒スピーチ (後編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

キャンドルの芯に飯粒を付着させた男が慌てて飯粒を擦り取ったのでキャンドルに火が着いた。


おれが、何事も無かったように食事していると名前を呼ばれた。


おれは、この披露宴でスピーチを頼まれていたのを思い出した。


マイクの所まで行ったが、おれのスピーチはいつもぶっつけ本番と決まっている。


その日のスピーチも軽く新郎新婦とその家族に挨拶してから始めた。


長ったらしいスピーチは性に合わないので簡単に済ませるつもりだった。

「あいにく今日は大雨ですが雨降って地固まると言う事もあります」とそこまでは良かったが「しかし大雨で土砂崩れって事もあるので気を付けて」と結婚披露宴スピーチのタブーを付け足してスピーチを終わった。


周囲が、どよめいてから静かになった。


スピーチが短かったので司会者がおれに「八光流柔術の師範だそうですが、ここで少し型を見せて貰う事は出来ますか?」と言って来た。


おれが「見せてもいいけど おれがここで八光流を見せたら新郎が霞みますよ」と言ってから「型には相手が要りますが新郎を華やかに投げ飛ばすのも一興かも知れないですね」と皮肉な笑みを浮かべると場内が異様に静まり返ったので「ここは笑う所」と言っておれはマイクから離れた。



この披露宴の終盤に新郎のスピーチがあったが滅法気が小さくて緊張しやすいあいつにしては、全く緊張せず上手く挨拶出来たのでおれは少し感心した。



披露宴が終わり会場を出る時 新郎と新婦が立って挨拶していた。


おれが「おめでとう」と言うと新郎が「お前相変わらず無茶苦茶な奴だな」と言っておれを睨んだので「そのお陰で緊張するのを忘れてただろう」と睨み返したら「あっ そう言えば」と新郎が驚いたように言った。


新婦が「だからあんな...」と言って新郎とおれの顔を見た。


「おれは、そんな良い奴じゃない これに懲りたら次に結婚する時は、おれなんか招待するな」と言い捨てておれは結婚披露宴会場を後にした。