ダークヒーロー ビギニング vol.20 | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

ある日の休み時間 彼女は、後ろから蹴られて前に倒れ四つん這いになった。


その姿を見て蹴った奴は、大笑いし その仲間もへらへら笑っていた。


彼女は黙って立ち上がりその場を離れようとしたが、そんな彼女の足を引っ掛けて転倒させた虐めのリーダー格は、また手を叩いて笑っていた。


他の生徒は、助けようとしない。


遠くからその様子を見掛けたおれの胸の奥からどす黒い怒りが込み上げておれの中のダークサイドが覚醒した。


「お前ジメジメして気色悪いんじゃ!学校出て来るな」とリーダー格が底意地悪く言った時 おれは奴の後ろから首を掴んで壁に顔面を押し付けた。


「何しやがる!」と虐めのリーダーは抵抗したが、おれはお構い無しに奴の後ろ衿を掴んで仰向けに引き倒して「お前が学校に来るな」とリーダー格の喉を鷲掴みにしながら言った。


奴の仲間二人が助けに来たが「何か用か?」とおれが言うと二人共尻込みした。


この弱い者虐めばかりしている連中は、強い者には全く頭の上がらない奴らで おれの怒りの前には成す術が無くおれが奴の喉から手を放すと咳込みながら仲間と共に教室から逃げて行った。


おれが、自分の席に戻ると隣席の彼女が「ありがとう」と小さな声で言った。

おれは「別にどうって事は無い」と言っていたら数学教師が来て授業が始まったのでおれは、いつもの通り眠りに落ちて行った。



やがて三学期が終わり掛けた頃 隣席の彼女が「私ね 別の親戚の家に行く事になった」と呟くように言った。


おれが「大丈夫なのか?」と聞くと彼女は「今より悪くならないと思う」と言ってぎこちなく笑って見せた。


彼女は、三学期が終わると同時に京都市の親戚に貰われて行った。



その後10年位彼女と会う事も無くおれは隣席の陰気な女子の事は、忘れていた。


ところが、おれが京都市内に出掛けた帰り 京都駅から電車に乗ろうとした時 その電車から降りて来たのは、あの隣席の彼女だった。


彼女は、子供を抱いていた。


おれ達は、同時に気が付いた。


すれ違う時 先に彼女が「あっ」と言ったのでおれは「おお」と返した。


電車の扉が閉まる寸前に彼女は、おれに向かって言った。

「私 もう大丈夫!」


おれは、振り向いて彼女を見たら まるで憑き物が落ちたように明るい顔をしていた。


「そうか」とおれが言うと電車の扉が閉まった。


電車が走り出しおれは、座席に座った。

「母は、強しか? フフハハハ」おれは何だか嬉しくて思わず声に出して笑ってしまった。


そんなおれを周囲の乗客が気味悪そうに見ていた。