狂ったように暑い夏が、ようやく終わった。
おれが子供の頃 昭和の時代は、夏と言ってもこれ程暑くなかった。
だから冷房の無い家も多く我が家にも無かった。
冷房は無くても扇風機で暑さを凌げた。
あれは、おれが小学4年だったと思う。
その夏 おれは家の中で暴れていて うっかり扇風機に激突し扇風機を壊してしまった。
「あんたが扇風機の代わりにうちわで家族全員を扇いで回り!」と母が怒った。
おれが「知るか」とふて腐れていると母がテーブルの上にあった電気屋のチラシに見入っていた。
チラシによると その日限定で扇風機が半額になっていた。
ただし数に限りがあり自分で持ち帰る事が条件になっていた。
早速おれと母は、電気屋に向かった。
炎天下1km離れた電気屋まで歩くだけでも汗だくになった。
何とか売り切れるまでに扇風機を購入して帰路に着いたおれ達を容赦なく夏の太陽が照らしていた。
途中まで二人で持ったが後数100mは田畑の間の狭い道だったので一人が交代で持つ事にした。
「暑い~ 重い~」と歩いていると「その重さは、あんたの罪の重さ」と言って母が笑った。
日影の無い細い道を歩いていると近所の農家の婆さんに会った。
「荷物持ちか?偉いねぇ」と婆さんは言ったが「ぜんぜん偉く無いですよ 悪い事ばかりして」母は手の甲で額の汗を拭いながら言った。
「そうか そうか」と婆さんは、おれの頭を帽子の上から撫でてくれた。
おれと母は、そこから暫く歩いて帰宅した。
おれは、家に入ると直ぐに扇風機をセットしてスイッチを入れた。
「ひやぁ~ 涼しい」と言っていると母も「あ~涼しい苦労した甲斐があった」と満足そうに言った。
おれは、あの時の爽快な気分を忘れる事は無いだろう。
おれは、夏の終わり頃になると何故かあの扇風機を買いに行った日の事を思い出す。
田畑の景色や汗だくの母の顔 頭を撫でてくれた婆さんの手の感触 それらが昨日の事のように浮かんで来る。
あの熱中症になるかと思う位に辛かった炎天下の買い物が今となっては、とても懐かしく 楽しかったそして大切な少年の日の思い出になっている。