ダークヒーロー イン・ザ・スクール (44) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

次の日も同じ学校の学童保育での仕事だった。


例の少女が学童の室内におれが居るのを見付けて「あっ 先生」と言って嬉しそうに駆け寄って腕を組んで来た。


「鬱陶しい 離れろ!」と少し声を荒げて言うと「冷たいなぁ そこがまたいいんだけど」と言っておれの脇腹をつねった。

とんだ「ませガキ」だ。

大人の女性でもこんな仕草は難しい。


仕事の合間におれは、年配の指導員に「ませガキ」の素性について聞いた。


年配の指導員の話によると少女の家庭は、母子家庭で両親は彼女の幼い頃に離婚していた。

母親は、昼も夜も働いていて昼は事務員夜はホステスの二つの顔を持っていた。


「何故かあの子は、同年代の子供と付き合わず大人の男性に甘える癖があり その甘え方が妙に色っぽくて私達も何だか心配なんです」と年配の指導員が言った。


「可哀相な奴ですね」とおれが言うと指導員が「可哀相?」と聞き返した。


無邪気で楽しい子供時代が、たった10歳で失われているなんて短か過ぎるとおれは思った。


その後おれは、この少女がおれを介して他の子供達と遊べるように苦心した。

彼女が少しでも子供らしさを取り戻せればと思った。


少女は、なかなか馴染まなかったがある日「ケイドロ」と言う警察チームが泥棒チームを追い掛けるいわゆる鬼ごっこの一種に参加した。

おれと彼女は、警察チームになって最後に残った逃げ足の早い4年男子をおれと彼女で挟み撃ちにして捕まえた。


「ヤッターッ!」この時の少女は、他の子供達と同じ無邪気な笑顔だった。


その日を境に少女は、次第に自分から他の子供達と遊ぶようになった。


やがて「ませガキ」少女を含めた4年生は、卒所する時期になった。


卒所間近に「卒所式来る?」と少女が聞いた。

「いや その日おれは別の学校に居る」とおれが言うと「フーン でもまた会えるよね」と彼女は独り言のように言った。

おれは「ああ またな」とだけ言った。


しかし彼女とは、再会する事は無くおれは、その次の年に学童を去った。



「どうしてますかねぇ あいつ」と患者に言うと患者は、その後の彼女のショッキングな噂話をおれに聞かせた。


その話と言うのは、少女が中学二年の時30代の男と駆け落ちし1年後に捨てられて実家に帰って来た。その時既に妊娠していて今では一児の母になっているが子育ても仕事も出来ない程心身共にボロボロで彼女の母親が、彼女と孫の世話をしているらしい。


「おれは、結局あいつに何もしてやれ無かったのか」と溜息混じりに呟いた。


「でも あの子の4年生の頃学童で先生と一緒に遊んだのは、いい思い出になってると思いますよ」と患者が慰めるように言った。


窓の外は夕焼けだった。

「お前も見てるか?この夕焼け」


おれは、脳裏に映った笑顔で駆け寄って来る少女の面影に心の中で語り掛けた。