その頃からおれは、花粉症が酷かった。
花粉症の時期になるとその薬の副作用でかなり強い眠気がおれを襲って来る。
無理に起きていると当然機嫌が悪くなる。
ある日 塾に行ったら眠気が異常に強くなりおれの身体が、前後に揺れ出した。
それを見たオヤジ講師が「寝るなら塾に来るな!」と怒鳴った。
おれが「すみません」と謝るとオヤジ講師は何を思ってか「月曜から日曜まで英語で言ってみろ」とおれをバカにしたような薄笑いを浮かべて言った。
幾ら英語が苦手でも普段なら難無くそれ位は言える。
しかしその日のおれは、思考停止状態だったので素早く言葉が出て来なかった。
そんなおれに オヤジ講師は「一週間を英語で言う事も出来んのか?本当にアホやね」と徹底的におれをやり込めようとして来た。
オヤジ講師の言葉でおれの眠気が吹っ飛んだ。
狭い英語教室に低くて暗いおれの声が響いた。
「言ってくれるねぇ」とおれが、オヤジ講師を睨んだ時 隣の席に座っていた中学の同級生が「ヤ ヤバイ」と小さな声で言った。
「アホに教えるのもお前の仕事だろう それが出来ないならお前は、只のヘボ講師だ」とおれが言うとオヤジ講師は「な何を言うか!」と応戦しようとしたが、おれは構わず続けた。
「こっちは、金払ってまでヘボ講師に習いに来てるんじゃない こんな胸糞悪い塾 今すぐ辞めてやる!」 とおれは席を立って教室を出た。
教室を出る時「喜べ 邪魔者は出て行く」と言って講師を横目で見たら口をパクパク開けたり閉めたりしていた。
他の生徒は、全員固まっていた。
おれは、塾からの帰り道 過去の栄光にしがみついている初老の男に言い過ぎたかな?と少し反省した。
しかし例えどんな相手でも越えてはならない一線がある。
それは、力の暴力であれ言葉の暴力であれ同じ事だ。
そしてこれは、現在に於いてもおれの護身術の心得の一つでもある。