黒犬伝 その10(前編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

黒い北海道犬アクが3歳になった頃には、アクは向かう所敵無しになっていた。


闘えば必ず勝つアクの噂は、町中に広がって行った。


野良犬達は、アクを恐れてアクのテリトリーから姿を消し マナーの悪い飼い主達は、迷惑な場所で犬を放す事が無くなった。


そんなある日 おれとアクが、いつもの公園へ散歩に行くと見掛けない犬が来ていた。


赤茶色の中型犬で竹を削いだような耳と三角の目と巻き尾から日本犬の血統だと分かるが鼻面が日本犬にしては少し長く洋犬の血の流れも感じる。引き締まった筋肉は、アクと同等と見た。


その犬を連れているのは、ピンクのワンピースに鐔の広い帽子を被った色白の如何にもお嬢様タイプの20歳位の女性で全く連れている犬とミスマッチだ。


アクとその犬は、同時にお互いを認識して同時に身構えた。


「ゲン 駄目よ」とお嬢様が言ったのでその犬の名前がゲンだと分かった。


「構うなアク!来い」とおれは、アクのリードを引っ張ったが完全に戦闘モードに入ったアクは、地面スレスレまで身を低くして動こうとしない。


その時ゲンが猛烈な瞬発力で飛び出した勢いに負けてお嬢様がリードから手を放してしまった。


ゲンが、アクの鼻先10cmの所で止まって二匹は、低く唸りながら睨み合った。



後編に続くん