おれは、小学生の頃夏休みになると京都市内の祖父の家に行きそこで夏休みの大半を過ごす事にしていた。
祖父は、若い頃柔道をやっていて その柔道の技を喧嘩に使う事のある武道家としては、困った男で高齢になっても喧嘩っ早く暴れん坊爺さんだったがおれは、爺さんのそんなデンジャラスな所も嫌いじゃなかった。
だから夏休みは、爺さんの家に行くのが楽しみだった。
おれと爺さんは、京都御所へ地虫(蝉の幼虫)採集に行った。
爺さんの家は、京都御所まで徒歩10分の所にあり地虫採集は、毎年恒例で夜に採集した地虫を蚊帳に放して寝ると翌朝蝉になっている。
その様子を夜中に何度か起きて観察し蝉に成った元地虫達をまた爺さんと御所へ放ちに行く所までを毎年1回必ずやっていた。
あれは確かおれが小学三年の夏休み 夜8時頃爺さんと地虫採集を楽しんでいると木の陰から若い男が出て来た。
男は、ボソボソと低い声で爺さんに話しかけていた。
爺さんは「怪我したら詰まらんから止めといた方がええ」と男の顔に懐中電灯光を当てて言った。
すると男は、ズボンのポケットから小型のフォールディングナイフを出した。
爺さんは「アホやのう」と九州訛で言った。
後編に続く