多人数捕り | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

八光流の技の練習は、基本 一対一で行う。

中には、二人捕りと言われる二人の相手に掛ける技もあるが、二人捕りの種類は少ない。


最近の練習時にある弟子から 対一人の技は、多人数には通用しないのでは?と言うような質問を受けた。


これは、護身目的で修業していると必ず突き当たる問題だ。


実は、おれも昔 師匠に全く同じ質問をした事がある。

その時師匠は「多人数の場合は、難しく考えずに例えば目潰しのような単純で効果的な技を使う方がええ」と言ってから「一人に対していつまでも関わらない工夫をするんじゃ」とも言った。


その日の練習の師匠の技は、いつも以上いやいつもとは別の厳しさがあった。


当て身の入れ方にも殺気があったし おれは、降参の合図であるタップをその日の練習中1回もしなかった。

と言うより出来なかった。


おれは、おれの下らない質問に師匠が腹を立てているのか?と思った。


練習後師匠は「こう言うのもたまにはええなぁ」と満足げに言った。

おれは「たまにはねぇ・・・」と不服な顔で言った。

こんな練習を頻繁にやられたらたまったもんじゃない。


その日の練習の帰りクタクタに疲れていたおれは、眠りこけて電車の駅を3駅も乗り過ごしてしまったが、 朦朧とした意識の中でその日の師匠の技が、まるでパズルのピースのように一つずつ嵌まって行った。

そして今回の練習は師匠が、おれと一対一の練習をする中でおれを多人数の敵に見立てて技を掛けていた事に気が付いた。

おれは(なるほどねぇ やっぱり面白過ぎるぜあの男)と今更ながら思った。


おれの多人数捕りには、特にこれと言った型はない。

あるのは、ただ「難しく考えるな」と「一人にいつまでも関わらない工夫をしろ」と言う師匠の言葉とあの日掛けられた技の八光流と呼ぶには、余りにも荒っぽく野性的な技の衝撃だけだ。