野良犬の仕事(後編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

数日後 おれは、その患者宅へ行った。

婆さんは,辛そうな表情を浮かべてベッドに横たわっていた。
そしておれに 気付くと暗い目でこちらを見た。

この暗い眼差しの中に おれの生きる世界がある。

婆さんの事情と症状は、既に後見人から聞いていたのでおれは、早速治療に
掛かった。

婆さんは、寝返りができないので仰向けのまま背中の下に手を突っ込み中指と薬指で下から上に押し上げるように背中と腰を指圧してから四肢の経絡も指圧し八光流奥義心的作用とオステオパシーの高等テクニックCV4を織り交ぜて施術した。

婆さんは,施術中「気持ちいいなぁ」と呟いた後イビキをかいて熟睡した。
恐らく身体中の不調で長らく熟睡してなかったんだろう。

翌日 後見人が婆さんの様子を見に行くと婆さんが台所に立っていたので後見人は、かなり驚いたようだ。

その後も定期的に治療に行く内に婆さんは、ほぼ普通に会話出来るようになった。
そして家の中を歩行器を使って歩く位の事は、出来るようになっていた。

ところが、ある日病院で受けた検査でパーキンソン病の兆候があると言われドーパミンを出やすくする薬を飲む事になった。

その5日後おれが行くと婆さんは、何かに怯えるように落ち着かなくソワソワして治療どころじゃ無かった。

おれは、治療を試みたが無理だった。

結局翌日 病院に連れて行かれた婆さんは、入院する事になり1ヶ月以上経った今も退院出来ない。

数ヶ月おれがやって来た事は、完全に無になった。

婆さんが退院して帰って来ても症状は逆戻り0からいや-10位から再治療となるだろう。

だが、それでもおれは婆さんの帰りを待っている。

あの暗い眼差しに再び野良犬が挑む為に姿勢を低くして待ち構えている。