その日おれは、キャンプ場に行くコースを下見に行く指導員に同行して山中を歩いていた。
この指導員は、50代半ばの女性で くそ真面目で冗談の解らないおれの最も苦手な指導員だ。
彼女は、山岳会の会員だと言うのでおれは、まさか道に迷う事は無いだろうと思っていた。
しかし山中を歩いている内に見た事のある所を何度も歩いているかと思えば道無き道を進んで行くのでおれは、彼女に聞いてみた。
「もしかして道に迷ってます?」
すると彼女は「今頃気付いたんですか?」と飛んでもない答えを返して来た。
そんな事 既に気付いていたが、必死に手書きの地図を見ながら歩き回っている彼女がいつか正しい道に行き着くと信じていた。
だが,信じたおれが甘かった。
おれは、彼女が持っている手書きの地図を横から覗き見て呆れた。
その地図は、ふにゃふにゃと引かれた数本の線と所々に記された○とXだけの代物だった。
「おれ達 今までこんなミミズの寝床みたいな地図に振り回されて歩いてたんですか?」とおれは腹が立って来た。
「山岳会の友達が書いてくれたんだけどなぁ」と彼女は、地図を片手に首を傾げた。
「信用する相手を間違えましたね」と言っておれは、周囲の鬱蒼とした木立を見渡して溜め息をついた。
(26)に続く