ダークヒーロー イン・ザ・スクール(26) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

寄りによっておれは、この最も苦手で気の合わない指導員と山中で迷ってしまった。

山岳会員と言う彼女は、相当パニクっている。
この指導員が、頼れないなら おれが自分で道を探すしかない。

おれは、既にキャンプ場に行く事は諦めて下山する道を探すのがベストだと考えていた。

おれは、自分の帰巣本能に頼って行動する事にしたが問題の指導員の山岳会員としての経験と知識も利用出来れば心強い。

だが彼女は、すっかり冷静さを欠いている上に落ち込んでいて判断力が信用出来ない。

そこでおれは、ある作戦に出た。
おれは、聞こえよがしに言った。
「あ~あ 迷子か? とうせ遭難するならもっと若くて綺麗な指導員と来たかったぜ」

すると彼女は「何て言う事を!」とおれの言葉に反応して睨んで来た。

おれは、続けて言った。
「こんなドジな指導員と遭難して折り重なるように死んでいる所を発見されるなんて泣けて来るねぇ」

彼女は「何であんたなんかと折り重なって死なんとあかんね!」とかなり頭に来たようだ。

おれが「それが嫌だから下山する道を探してるんですよ 協力して下さい」と言うと「言われんでも絶対遭難なんかしないから!」とさっきまでの彼女とは別人のようにテキパキ動き出した。

少し薬が効き過ぎたが、おれの作戦通りだ。

おれと彼女は、協力して思ったより早く下山出来た。

おれが「暗くなるまでに下山出来て良かった」と言うと彼女は「自分でも不思議な程 頭が冴えて勘の働きもバッチリでした」そして「腹が立ってカーッとなったからかなぁ」と照れくさそうに言った。

「逆境や恐怖に対抗するには、時には怒りのパワーも必要なのかも知れないですね」と言うと彼女は「あの時 先生があんな事を言ったのは、私を怒らす為だったんですね」と言っておれを見た。

おれは「さあね 案外本音が出ただけかも知れませんぜ」と皮肉な笑みを浮かべた。

すると彼女も「子供達が先生に懐くのが何となく分かったような気がするなぁ」と微笑んだ。


この日 おれと彼女は、危うく山中で遭難するところだったが、それが切っ掛けで おれの最も苦手なクソ真面目で冗談の解らない指導員が、それ程苦手じゃ無くなった。