黒犬伝 その7(前編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

黒い北海道犬アクは、一日の大半をダラダラ過ごしていた。

人に尻尾を振る事は滅多に無く無表情で何を考えているのかよく分からない奴だった。

だが、山で放した時や喧嘩の時だけは、普段のダラダラが嘘のように素早く激しく行動する。
その姿は、殆ど怪物だった。

ある日 アクを連れていつもの山に行くと雑木林の中で何かが動いた。

(イノシシか?)とおれが思った時には、既にアクが追跡していた。

「アクッ!」と呼んでもイノシシもあいつも山奥に姿を消した後だった。

こんな時のアクは、放っておくしか仕方がない。

おれは、その場で暫く待ったが日が暮れて来たので先に下山する事にした。

おれには何故か自宅に居れば必ずあいつが帰って来るという確信のような物があった。


後編に続く