古傷の痛みは、腕を上げるのも辛い程怠痛い時や脚を引きずらなければならない程膝が痛む時がある。
だが、武道家と言うのは因果なもので容易く弱点を曝す訳にいかない。
だから古傷が痛む時も何食わぬ顔で行動するように心掛けている。
ある患者が治療後「先生は、何処も痛い所が無くていいなぁ」と羨ましそうに言った。
おれは「そうでもないですよ おれと身体を交換したら痛い所だらけでびっくりしますよ」と冗談ぽく笑った。
「ほんとですか?」と患者も笑いながら帰って行った。
その日は、雨が降っていた。
この雨は、降ったり止んだりしながら3日間降り続いていた。
古傷を持つ人間にとって長雨は辛い。
患者を見送って直ぐ おれは、右前腕を掴むように押さえて片膝を着いた。
そして「ハードボイルドは、痩せ我慢の美学だ」と痛む右腕を擦りながら呟いた。