ダークヒーロー イン・ザ・スクール(24) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

指導員の一人が、おれに近寄って耳打ちした。
「あんたの事を知らない父兄が、不審人物が餅を食べてると言ってるよ」

「何だそりゃ じゃあ挨拶して来ます」とおれは、食べかけの餅が乗った皿を持ったまま怪訝な顔をしている父兄達の所へ歩いて行った。

「時々この学童保育にピンチヒッターで仕事をしている在宅指導員です」と挨拶すると母親の一人が「じゃどうして仕事をしないの?」と少し怒ったように言った。
「おれは、今日はゲストだから仕事する気なんて全く無いです」と言うと
「それでも他の指導員や父親達が忙しそうなのを見て手伝おうとか思わない?」とその母親は何だか説教がましく言った。

せっかく機嫌良く餅を食べてるのに無粋なオバハンだとおれは段々腹が立って来た。
「ここでおれが手伝ったら料金が発生しますよ オタク払ってくれるんですか?」と冗談混じりに切り返したらオバハンは「こんな感じ悪い指導員初めてやわ」と他の指導員の方を向いて言った。

そこへ4年生男子が「もうすぐぜんざい出来るから一緒に食べよう」とおれを誘いに来た。

おれは、その少年の頭を無造作に撫でて「おっ 待ってました!」と怪訝な顔の解けない父兄達を尻目にぜんざいを目指して歩きだした。

後ろから父兄の「あんな男でも子供が懐いてるなんて…」と不思議がる声が聞こえたがおれにはぜんざいの方が重要だった。

「もっと早く歩けよ」と少年が嬉しそうにおれの背中をおした。


やがて餅つき大会が終わり父兄が帰ってからこの学童保育のリーダー格の指導員が「子供達の楽しそうな顔を見てたら 今日あんたは、やっぱり手伝ってくれた事になるなぁ」と一人で納得していた。

「いや おれは、餅食ってただけで仕事したつもりは無いです」と言いつつ最後に残った餡餅に箸を伸ばすと指導員達は「まだ食べるの!?」と驚いた。

おれは「当たり前でしょ おれはこの為に昨日の晩飯は茶漬けだけにして今朝は朝飯抜いて来たんですから」と言って餅にかぶり付いた。

指導員の誰かが「やっぱり お餅だけが目当てか」と溜め息を洩らした。