暴れん坊爺さん その1(後編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

中学1年の体育の授業に柔道があった。

おれは、どんな練習をするのかと期待していたが初回は受け身の練習だけだった。2回目以降も期待していた程の練習でも技でも無かった。

体育教師は、一応黒帯のようだが このゴリラみたいな男は、生徒が少しでも気を抜くと直ぐ柔道の技を掛けたがる体育会系丸出しの男だった。

おれが、受け身の練習に飽きてダラダラしていると「シャキッとせんか!」と言って体育教師がおれの襟を掴んで脚払いを掛けて来た。

昔は、こんな事は平気で罷り通っていた。

この体育教師は、おれのように小柄な中学生なんて吹けば飛ぶ位に思っていた。

ところが、奴の脚払いは全くおれに通用しなかった。
体育教師は焦り 必死に脚払いを繰り返したり態勢を崩そうとしたが無駄な足掻きに終わった。

おれが「いつまでやってるんですか?」とそろそろ諦める事を促すと「何処で習った?いや何処で習ってる?」と奴が真っ赤な顔で聞いた。

「いや 別に」とおれが言うと「もういい」と疲れた顔で体育教師は、肩を落として他の生徒の方へ歩いて行った。

同級生がおれに「あの先生 執念深いから狙われるぞ」と心配した。

おれは「結果は同じだ」と冷たく言った。

それと同時に終業のベルが鳴った。

その後 ゴリラみたいな体育教師は、おれに挑んで来る事は無かった。
そして他の生徒にも無闇に柔道の技を掛ける事は無くなった。


事実おれは、誰にも柔道を習った事は無かった。

しかし暴れん坊爺さんの血と遺伝子は、隔世遺伝の法則通り 確実におれの中で脈打っていた。