黒犬伝 その6(前編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

黒い北海道犬アクには、1才年上の親友が居た。

その犬は「ゴロー」と言う体重40キロの大きなジャーマンシェパードで 気は優しくて力持ち その上頭も良くおれにとっても人間より信頼出来る友達だった。

ゴローは、物分かりの良い奴で おれとアクの間に割り込む事はせず おれとアクの共通の友達でいてくれた。

アクは、大きな犬を見ると戦闘モードになる癖があったがゴローに対しては絶対に牙を剥く事は無かった。

それは、単におれとゴローとが既に友達だったからと言うだけじゃなくそれ程にゴローと言う犬がフレンドリーだったからだろう。

ゴローの飼い主は、海苔屋の社長夫人で年の頃は60才前後のオバサンだった。
この悪気の無いオットリしたオバサンとおれは、何となく気が合って おれとアクそしてオバサンとゴローは、よく連れ立って近くの山等に散歩に行った。

ある日 おれ達2人と2匹が西山を登って行くと前方の藪の中から凶暴そうな紀州犬が出て来た。

ゴローは、驚いておれの顔を見たがアクは、既に身構えていた。

紀州犬の後から飼い主らしい小柄な中年男が姿を表した。

おれとオバサンは、山奥で人が居ないと思い2匹を放して歩いていたので急いで2匹にリードを着けたが紀州犬の飼い主はリードを着ける気配が無かった。

これは只事じゃ済まないと思ってアクを見ると奴は「クオォーッ」と息を吸い込んでタテガミを逆立て一回り大きくなっていた。


後編に続く