黒犬伝 その4(前編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

黒い北海道犬の子犬「アク」がおれの所にやって来て1年経った。

成犬になったアクは、普通の北海道犬より少し細身で引き締まった体型だったが それが尚更野性味を感じさせる精悍な犬に成長していた。

その頃は、現在と違い野犬や放し飼いの犬が少なくなかった。

おれとアクの散歩コースは、広域に渡っていた。
その散歩中に野犬や放し飼いの犬に出会す事はよくある事だったので必然的にアクとバトルになる。

アクは、化け物並に強くアクと闘って30秒以上闘える相手は無かった。
だからアクが2才になる頃にはあいつのテリトリー内の野犬は一掃され犬を放し飼いにする飼い主も激減した。

アクには、奴なりの掟があるらしく闘う相手は、主に自分より大きい犬か自分に向かって来る犬で子犬や雌犬や見るからに弱そうな犬とは闘わない事にしているようだ。

それが、ヒグマ狩り用とさえ言われる北海道犬の習性なのかプライドなのかは分からない。

ある日の散歩中 おれとアクが近所の神社の境内を通り抜けようとした時 目の前の茂みからバカでかい秋田犬が現れた。

その犬は、猛獣のような目で睨みながらアクの鼻先20センチまで近付いて来た。

灰色地に黒の虎柄の秋田犬 そいつがこの辺りの建築業者に飼われている「シンノスケ」と言う猛獣だと気付いておれの額に汗が滲んだ。

ここは、アクに任せるしかない。
おれは、激闘の邪魔にならないようにリードを外して睨み合う2匹から数メートル離れた。


後編に続く