奇人変人列伝 その9(前編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

おれが師範になって最初の弟子は、かつて保育士の国家試験を一緒に受験した男だった。

その男とは、試験会場で出会った。
その頃まだ保育士は、男は保父 女は保母と呼ばれていた。

試験会場は、夏休み中の女子大で2日掛けて行われていた。

昼休み おれがフェニックスの木陰で昼寝していたらニヤけた男が話し掛けて来た。
「君も受験で来てるのかな?」と当たり前な事を聞くので おれは「ああ女子大を覗きに来た変態じゃないぜ」と半ば居眠りながら答えた。

その男は、とある会社の営業マンだったが ノルマに追われる仕事に嫌気が差して元々子供好きだった事もあって保父になる事にしたのだと別に聞きもしないのに自分の受験の動機を語った。

「君も 子供好きなの?」と怪訝な顔でおれに聞くので「いや 子供は嫌いだ」と答えるとそいつは「へぇーっ そりゃ面白い じゃどうして保育試験受けるの?」と興味津々でおれの隣に座った。
おれは「そいつが、おれにもよく分からねぇ」と少し笑った。

隣の男は「アハハッ 君面白いなぁ 気に入った」と人懐っこい笑顔で「ぼく情報集めるの得意だから試験の耳寄り情報が入ったら君に教えるよ」と妙に一人でおれに急接近して来た。

おれは「ありがたいねぇ とにかくおれはもう少し寝るから起こすなよ」と目を閉じた。

次に目を覚ましたら ニヤけた男は消えていた。

午後からの試験が終わり校舎を出ると例の男がおれを追い掛けて来た。
「早速一個 情報が入ったよ」と彼は、仕入れたての情報を話してくれた。
「おっ やるねぇ大した情報屋だ」とおれは感心した。

おれもそいつが気に入ったので お互い簡単な自己紹介をして その日は駅で別れた。


後編に続く