ダークヒーロー イン・ザ・スクール(18) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

その指導員に言われるまでもなく少年は、おれに近付いて来た。学校と言うスペースにあまりにも違和感のある存在を見付けて興味を持ったようだった。

少年は、よく他の児童や指導員ともめたり喧嘩になったりしたが おれの見解では、少年のもめ事や喧嘩は奴の正義感に基づく事が多かった。だからおれは、喧嘩は止めても少年を叱る気にはならなかった。

少年は、おれの体験談や怪談を聞くのが好きで おれを見掛けると寄って来て話をせがんだ。

ある日 部屋の片隅に子供達を集めて怪談を話している所にキノコと渾名される(名付け親はおれだ)若い指導員が靴をぶら下げて入って来て「この靴誰のですか?」と甲高い声で言った。
おれの話の邪魔をされて奴は怒った。
そしてキノコの所へ行き「うるさいんじゃ!おばはん!」と怒鳴った。

あまりのタイミングの良さと適格な指摘に思わずおれは、手を叩いて大笑いしてしまった。

後でおれは、キノコや他の指導員達にギューギュー油を搾られたが 今でもおれは、その日の事を思い出すとニヤツいてしまう。

少年は、四年生になっても相変わらずだったが喧嘩を止めた時だったかどんな状況かは忘れたが おれは、あいつに軽く八光流の技を掛けた。

八光流柔術の話をしてやると少年は、目を輝かせて聞いていた。
そして「おれが師範になったら習いに来るか?」と聞くと「絶対行く」と更に目を輝かせた。


15年後 おれの道場に奴は現れた。
「僕の事覚えてますか?」と25才の青年になったあいつは言った。
おれは「ああ覚えてる そっちこそよく覚えてたな」と笑って 今何やってるのか聞くと奴は、現在 司法修習生で弁護士を目指していると言う。
おれは「おおう大したもんだ」と感心した。

奴は、約束通り入門した。

その日の練習が終わり奴が帰ってからおれが「あいつが弁護士ねぇ」と呟くのを耳にした弟子が「彼は、弁護士何ですか?」と意外そうに聞いた。
おれは「ああ まだ卵だけどな」と答えてから「きっと 良い弁護士になるぜ」と言って星空を見上げた。
そして かつて真っ直ぐな目で指導員に食って掛かっていた少年の顔を思い出していた。