痛む手(前編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

治療室兼我が家の近所に年老いた患者が住んでいた。
この爺さんは、ある不治の病を患って何度か手術を受けた後おれの治療を受けるようになった。

彼は、自分の病気と闘っていた。

自ら進んで町内の清掃や除草作業をしたり小学生を学校の近くまで引率したりして地域に貢献する事を生き甲斐とし それを自分が生きる為の活力源にしていた。

そして早朝散歩とおれの治療も彼の抱えた病気に対する対抗策だった。

初めて爺さんの治療をした時 背中が異様に硬くおれの指を拒絶して来たのが印象的だった。

まるで彼の背中が「お前に何が出来る 出しゃばるな」と言っているようだった。

「何が出来るか やれるだけやってみます」
おれは、爺さんの背中を見詰めて宣言するように言った。


後編に続く