源氏物語の中の和歌(25) | 俳句の里だより2

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俳句の里に生まれ育った正岡子規と水野広徳を愛する私のひとりごと

早蕨、宿木の巻

 

このシリーズでは、平安時代に紫式部が書いた「源氏物語」の中の和歌(795首)について、第1巻の「桐壺」から第54巻の「夢浮橋」まで、順に紹介している。前回は、第47巻の「総角」の31首を紹介したが、ここでは第48巻の「早蕨」の15首及び第49巻の「宿木」の24首の内の9首の計24首を紹介する。

 

●巻48「早蕨」

〇姉大君の死去で悲しみに暮れる中の君へ、新春に阿闍梨から蕨や土筆などの山草が手紙と共に届き、詠まれていた歌

 君にとて あまたの春を 摘みしかば 常を忘れぬ 初蕨なり

〇それに応えて、中の君に代わり女房が代筆して詠んだ歌

 この春は 誰れにか見せむ 亡き人の かたみに摘める 峰の早蕨

 

〇正月下旬、薫が匂宮を訪れ梅の下枝を折って持って来た際に、匂宮が詠んだ歌

 折る人の 心にかよふ 花なれや 色には出でず 下に匂へる
〇それに応えて薫が詠んだ歌
 見る人に かこと寄せける 花の枝を 心してこそ 折るべかりけれ

 

〇匂宮が薫に中の君を京に迎えることを話し、薫は同意して大君の服喪が明けた春、中の君に衣類を贈り詠んだ歌

 はかなしや 霞の衣 裁ちしまに 花のひもとく 折も来にけり

 

〇中の君が京へ移転するため宇治を出立する前日、薫は宇治を訪れて中の君に逢い、紅梅を見ながら中の君が詠んだ歌

 見る人も あらしにまよふ 山里に 昔おぼゆる 花の香ぞする

〇それに応えて薫が詠んだ歌

 袖ふれし 梅は変はらぬ 匂ひにて 根ごめ移ろふ 宿やことなる

 

〇その後、薫は尼になった老女房の弁の君(弁の尼)と逢って亡き大君の思い出話をした際に、弁の尼が詠んだ歌

 さきに立つ 涙の川に 身を投げば 人におくれぬ 命ならまし

〇それに応えて薫が詠んだ歌

 身を投げむ 涙の川に 沈みても 恋しき瀬々に 忘れしもせじ

 

〇薫が帰京後、弁の尼は中の君へ薫との話の内容を語った際に、弁の尼が歎きつつ詠んだ歌

 人はみな いそぎたつめる 袖の浦に 一人藻塩を 垂るる海人かな
〇それに応えて中の君が詠んだ歌
 塩垂るる 海人の衣に 異なれや 浮きたる波に 濡るるわが袖

 

〇日暮れ近く中の君が京へ出立する際に、車に同乗してお供をする大輔の君(中の君の女房)が詠んだ歌

 ありふれば うれしき瀬にも 逢ひけるを 身を宇治川に 投げてましかば
〇同じく、別の年取った女房が詠んだ歌
 過ぎにしが 恋しきことも 忘れねど 今日はたまづも ゆく心かな

 

〇月の夜、険しい山道を難儀し上京する中の君が、訪れることが少なかった匂宮も仕方ないと思いながら詠んだ歌

 眺むれば 山より出でて 行く月も 世に住みわびて 山にこそ入れ

 

〇宵が過ぎ、二条院に到着した中の君を匂宮が心からもてなす様子を、近くの三条宮で待つ薫が聞いて詠んだ歌

 しなてるや の湖に 漕ぐ舟の まほならねども あひ見しものを

 

●巻49「宿木」

〇今上帝は娘の女二宮(母は藤壺女御)の結婚相手に薫をと思い、薫を誘って囲碁を打った際に薫が詠んだ歌

 世の常の 垣根に匂ふ 花ならば 心のままに 折りて見ましを
〇薫が女二宮の結婚に慎重な態度を取っているのに対して、今上帝が詠んだ歌
 霜にあへず 枯れにし園の 菊なれど 残りの色は あせずもあるかな

 

〇中の君が匂宮の子を懐妊したのを気の毒に思い後悔した薫は、早朝、中の君を見舞いに訪れようとして詠んだ歌

 今朝の間の 色にや賞でむ 置く露の 消えぬにかかる 花と見る見る

 

〇中の君を見舞いに訪れた薫は、中の君と亡き大君のことなど語らい、手折った花を御簾の内に差し入れ詠んだ歌

 よそへてぞ 見るべかりける 白露の 契りかおきし 朝顔の花
〇それに応えて中の君が詠んだ歌
 消えぬまに 枯れぬる花の はかなさに おくるる露は なほぞまされる

 

〇匂宮と娘の六の君(母は藤典侍)との婚姻を望む夕霧が、婚儀の当日、現れない匂宮に息子の頭中将を遣り詠んだ歌

 大空の 月だに宿る わが宿に 待つ宵過ぎて 見えぬ君かな

 

〇匂宮が六条院での六の君との婚儀に出掛けたため、二条院に残された中の君が月を見ながら心細く思い詠んだ歌

 山里の 松の蔭にも かくばかり 身にしむ秋の 風はなかりき

 

〇六の君との婚儀を終えて二条院に戻った匂宮は六の君へ書き、それに対し落葉宮(六の君の継母)が代作して詠んだ歌
 女郎花 しをれぞまさる 朝露の いかに置きける 名残なるらむ

 

〇匂宮と六の君との結婚第二夜、匂宮が出かけるのを悲哀に暮れつつ宇治を思いながら中の君が詠んだ歌

 おほかたに 聞かましものを ひぐらしの 声恨めしき 秋の暮かな