源氏物語の中の和歌(24) | 俳句の里だより2

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総角(あげまき)の巻

 

このシリーズでは、平安時代に紫式部が書いた「源氏物語」の中の和歌(795首)について、第1巻の「桐壺」から第54巻の「夢浮橋」まで、順に紹介している。前回は、第45巻の「橋姫」の13首及び第46巻の「椎本」の21首の計34首を紹介したが、ここでは第47巻の「総角」の31首を紹介する。

 

●巻47「総角」

〇秋、亡き八の宮の一周忌の準備のため薫は宇治を訪れ、願文を書いたついでに大君に対して詠んだ歌

 あげまきに 長き契りを 結びこめ 同じ所に 縒りも会はなむ

〇それに応えて大君がうるさく思いながら詠んだ歌

 ぬきもあへず もろき涙の 玉の緒に 長き契りを いかが結ばむ

 

〇大君につれなくされた薫は大君の前で所在なく一夜を明かし、やむなく帰京することになり歎きつつ詠んだ歌

 山里の あはれ知らるる 声々に とりあつめたる 朝ぼらけかな
〇それに応えて大君が詠んだ歌
 鳥の音も 聞こえぬ山と 思ひしを 世の憂きことは 訪ね来にけり

 

〇八の宮の一周忌法要を終え宇治を訪れた薫は、大君に相手にされず大君の策略で中の君と逢い、帰京後手紙で詠んだ歌

 おなじ枝を 分きて染めける 山姫に いづれか深き 色と問はばや

〇それに応えて大君が詠んだ歌

 山姫の 染むる心は わかねども 移ろふ方や 深きなるらむ

 

〇大君の気持ちに夜通し思い悩んだ翌朝、薫は匂宮を訪れて宇治の姫君の話をした際、匂宮が宇治に行きたいと詠んだ歌

 女郎花 咲ける大野を ふせぎつつ 心せばくや しめを結ふらむ 

〇それに対して薫がじらしながら詠んだ歌

 霧深き 朝の原の 女郎花 心を寄せて 見る人ぞ見る

 

〇匂宮を伴って宇治を訪れた薫は、策略で匂宮を中の君と結ばせるとともに、自分は大君の寝所へ行くが相手にされず詠んだ歌

 しるべせし 我やかへりて 惑ふべき 心もゆかぬ 明けぐれの道
〇それに応えて大君が悩む想いを詠んだ歌
 かたがたに くらす心を 思ひやれ 人やりならぬ 道に惑はば

 

〇夜明け前に薫とともに帰京した匂宮は、結ばれた中の君に手紙を出し、それに詠んだ歌

 世の常に 思ひやすらむ 露深き 道の笹原 分けて来つるも

 

〇匂宮が3日連続結ばれた中の君の所へ通うが、薫は京に残ったまま結婚3日目のお祝に大君へ衣装などを贈り詠んだ歌

 小夜衣 着て馴れきとは 言はずとも かことばかりは かけずしもあらじ

〇それに応えて大君が詠んだ歌

 隔てなき 心ばかりは 通ふとも 馴れし袖とは かけじとぞ思ふ

 

〇母の明石中宮に宇治への外出を諫められた匂宮は、それでも宇治を訪れて中の君に逢い、京へ戻る際に詠んだ歌

 中絶えむ ものならなくに 橋姫の 片敷く袖や 夜半に濡らさむ
〇それに応えて中の君が詠んだ歌
 絶えせじの わが頼みにや 宇治橋の 遥けきなかを 待ちわたるべき

 

〇9月に続き10月も薫は匂宮を宇治に連れ出すが、お供が多く姫君の所にも行けず噂話をしている時に、宰相の中将が詠んだ歌

 いつぞやも 花の盛りに 一目見し 木のもとさへや 秋は寂しき
〇それに応えて薫が詠んだ歌
 桜こそ 思ひ知らすれ 咲き匂ふ 花も紅葉も 常ならぬ世を
〇同じく、衛門督が詠んだ歌
 いづこより 秋は行きけむ 山里の 紅葉の蔭は 過ぎ憂きものを
〇同じく、宮の大夫が詠んだ歌
 見し人も なき山里の 岩垣に 心長くも 這へる葛かな

〇同じく、匂宮が詠んだ歌

 秋はてて 寂しさまさる 木のもとを 吹きな過ぐしそ 峰の松風

 

〇中の君に逢えなかった匂宮が、中の君を想いながら姉の女一の宮に対して詠んだ歌

 若草の ね見むものとは 思はねど むすぼほれたる 心地こそすれ

 

〇10月末、病気になった大君と中の君が匂宮の話をしているところへ匂宮から手紙があり、それに書かれていた歌

 眺むるは 同じ雲居を いかなれば おぼつかなさを 添ふる時雨ぞ

〇それに応えて中の君が詠んだ歌

 霰降る 深山の里は 朝夕に 眺むる空も かきくらしつつ

 

〇重病に陥った大君を薫は見舞い、看病し、傍に居る中の君に対して薫が詠んだ歌

 霜さゆる 汀の千鳥 うちわびて 鳴く音悲しき 朝ぼらけかな

〇それに対して、中の君が老女の弁を介して詠んだ歌

 暁の 霜うち払ひ 鳴く千鳥 もの思ふ人の 心をや知る

 

〇豊明の節会の雪の降る夜、京を思いながら重病の大君と結ばれなかったことを悔やみつつ薫が詠んだ歌

 かき曇り 日かげも見えぬ 奥山に 心をくらす ころにもあるかな

 

〇薫の必死の看病も空しく、大君は薫や中の君に見守られながら死去、7日の法事も終り薫が詠んだ歌

 くれなゐに 落つる涙も かひなきは 形見の色を 染めぬなりけり

 

〇宇治に留まり、師走の雪が激しく降った夜、月が照り亡くなった大君を思い出しながら薫が詠んだ歌2首

 おくれじと 空ゆく月を 慕ふかな つひに住むべき この世ならねば

 恋ひわびて 死ぬる薬の ゆかしきに 雪の山にや 跡を消なまし

 

〇雪の中、六の君(夕霧の娘)と婚約を交わした匂宮は宇治の中の君の所へ弔問に訪れ、その時に中の君が詠んだ歌

 来し方を 思ひ出づるも はかなきを 行く末かけて なに頼むらむ
〇それに応えて匂宮が詫びながら詠んだ歌
 行く末を 短きものと 思ひなば 目の前にだに 背かざらなむ