源氏物語の中の和歌(26) | 俳句の里だより2

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俳句の里に生まれ育った正岡子規と水野広徳を愛する私のひとりごと

宿木、東屋の巻

 

このシリーズでは、平安時代に紫式部が書いた「源氏物語」の中の和歌(795首)について、第1巻の「桐壺」から第54巻の「夢浮橋」まで、順に紹介している。前回は、第48巻の「早蕨」の15首及び第49巻の「宿木」の24首の内の9首の計24首を紹介したが、ここでは第49巻の「宿木」の残りの15首及び第50巻の「東屋」の11首の計26首を紹介する。

 

●巻49「宿木」

〇匂宮と六の君との結婚第三夜の宴に出た薫は、帰宅後我が身を振り返りながら按察使の君の部屋で夜を明かた時に、按察使の君(薫の母女三宮の侍女)が詠んだ歌

 うち渡し 世に許しなき 関川を みなれそめけむ 名こそ惜しけれ
〇それに応えて薫が詠んだ歌
 深からず 上は見ゆれど 関川の 下の通ひは 絶ゆるものかは

 

〇匂宮とやや疎遠になった中の君を慰めに、薫は二条院を訪れ中の君に迫ったが自制して帰宅し、翌朝手紙に詠んだ歌

 いたづらに 分けつる道の 露しげみ 昔おぼゆる 秋の空かな

 

〇久しぶりに二条院に戻った匂宮は、留守中に薫が訪れたことを知り、中の君にそのことを問い詰めた際に詠んだ歌

 また人に 馴れける袖の 移り香を わが身にしめて 恨みつるかな
〇それに対して中の君が詠んだ歌
 みなれぬる 中の衣と 頼めしを かばかりにてや かけ離れなむ

 

〇中の君のことを忘れられず、薫が中の君に衣装などを贈った際に詠んだ歌

 結びける 契りことなる 下紐を ただ一筋に 恨みやはする

 

〇9月薫は宇治を訪れ、中の君から聞いた亡き大君に似た娘(浮舟)について弁の尼に問い質し、帰り際に詠んだ歌

 宿り木と 思ひ出でずは 木のもとの 旅寝もいかに さびしからまし
〇それに応えて弁の尼が詠んだ歌
 荒れ果つる 朽木のもとを 宿りきと 思ひおきける ほどの悲しさ

 

〇帰宅した薫は二条院の中の君に宇治訪問のことを手紙に書き、それを匂宮が見て中の君と語り合う際に匂宮が詠んだ歌

 穂に出でぬ もの思ふらし 篠薄 招く袂の 露しげくして

〇それに応えて中の君が詠んだ歌

 秋果つる 野辺のけしきも 篠薄 ほのめく風に つけてこそ知れ

 

〇中の君に男子が誕生、薫は女二宮と結婚、藤の花の宴が催され女二宮が三条宮邸に移り、その宴で薫が藤の花飾りを折って今上帝に差し上げた時に詠んだ歌

 すべらきの かざしに折ると 藤の花 及ばぬ枝に 袖かけてけり
〇それに応えて今上帝が詠んだ歌
 よろづ世を かけて匂はむ 花なれば 今日をも飽かぬ 色とこそ見れ

〇同じく、夕霧が詠んだ歌
 君がため 折れるかざしは 紫の 雲に劣らぬ 花のけしきか
〇同じく、按察使大納言が詠んだ歌

 世の常の 色とも見えず 雲居まで たち昇りたる 藤波の花

 

〇4月末、薫は宇治へ行った時に偶然浮舟(中の君の異母妹)出逢い、弁の尼に面会の仲介を頼んで浮舟に対し詠んだ歌

 貌鳥の 声も聞きしに かよふやと 茂みを分けて 今日ぞ尋ぬる

 

●巻50「東屋」

〇浮舟と左近少将との縁談が破局、浮舟の母(中将の君)は中の君を頼り浮舟と共に二条院へ、そこへ薫が中の君を訪れ、浮舟が来ていることを知って詠んだ歌

 見し人の 形代ならば 身に添へて 恋しき瀬々の なでものにせむ

〇それに応えて中の君が詠んだ歌
 みそぎ河 瀬々に出ださむ なでものを 身に添ふ影と 誰れか頼まむ

 

〇その後、匂宮が浮舟に言い寄ったため、乳母が常陸の母(中将の君)へ連絡し浮舟を隠れ家へ隠す一方で、娘浮舟との縁談を破棄した左近少将に対し中将の君が詠んだ歌

 しめ結ひし 小萩が上も 迷はぬに いかなる露に 映る下葉ぞ

〇それに対して左近少将が詠んだ歌
 宮城野の 小萩がもとと 知らませば 露も心を 分かずぞあらまし

 

〇匂宮から逃れるため隠れ家へ逃れさみしい思いの浮舟へ母(中将の君)から手紙が来て、それに対し浮舟が詠んだ歌

 ひたぶるに うれしからまし 世の中に あらぬ所と 思はましかば
〇それに対して中将の君が詠んだ歌
 憂き世には あらぬ所を 求めても 君が盛りを 見るよしもがな

 

〇秋が深まり、新築された御堂をみるため宇治を訪れたに薫が、亡き大君のことを思い出しながら詠んだ歌

 絶え果てぬ 清水になどか 亡き人の 面影をだに とどめざりけむ

 

〇弁の尼に三条の隠れ家に居る浮舟に逢えるように依頼した薫が、夜になり浮舟を訪れて待っている時に詠んだ歌

 さしとむる 葎やしげき 東屋の あまりほど降る 雨そそきかな

 

〇明け方、薫は浮舟を弁の尼や侍従とともに車で宇治へ連れ出し、その途中で亡き大君を思い出しながら薫が詠んだ歌

 形見ぞと 見るにつけては 朝露の ところせきまで 濡るる袖かな

 

〇宇治に到着した薫と浮舟らは、琴を弾きながら語り合いくつろいでいる時に、弁の尼がくだものを供しながら詠んだ歌

 宿り木は 色変はりぬる 秋なれど 昔おぼえて 澄める月かな
〇それに応えて薫が詠んだ歌
 里の名も 昔ながらに 見し人の 面変はりせる 閨の月影