源氏物語の中の和歌(2) | 俳句の里だより2

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空蝉、夕顔の巻

 

このシリーズでは、平安時代に紫式部が書いた「源氏物語」の中の和歌(795首)について、第1巻の「桐壺」から第54巻の「夢浮橋」まで、順に紹介している。前回は、第1巻の「桐壺」の9首及び第2巻の「帚木」の14首の計23首を紹介したが、ここでは第3巻の「空蝉」の2首及び第4巻の「夕顔」の19首の計21首を紹介する。

 

●巻3「空蝉」

〇光源氏が小君(空蝉の幼い弟)に託して、空蝉(伊予の介の後妻)宛に届けた手紙に書かれた歌

 空蝉の 身をかへてける のもとに なほ人がらの なつかしきかな

〇光源氏の手紙を読んで、空蝉が心境をその手紙の隅に書いた歌

 空蝉の 羽に置く露の 木隠れて 忍び忍びに 濡るる袖かな

 

●巻4「夕顔」

〇光源氏が夕顔(頭中将の元恋人)の住む家を訪れた際に、夕顔が扇に書いて光源氏に贈った歌

 心あてに それかとぞ見る 白露の 光そへたる 夕顔の花

〇それに応えて光源氏が懐紙に書いて詠んだ歌

 寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 花の夕顔

 

〇霧深い朝帰りの朝、光源氏がお供の中将の君(空蝉の女房)に贈った歌

 咲く花に 移るてふ名は つつめども 折らで過ぎ憂き 今朝の朝顔

〇それに応えて中将の君が空蝉になり代わって詠んだ歌

 朝霧の 晴れ間も待たぬ 気色にて 花に心を 止めぬとぞ見る

 

〇8月15日の夜の逢瀬の際、光源氏が夕顔に贈った歌

 優婆塞が 行ふ道を しるべにて 来む世も深き 契り違ふな

〇それに応えた夕顔の歌

 前の世の 契り知らるる 身の憂さに 行く末かねて 頼みがたさよ

〇翌早朝、某院で光源氏が夕顔に贈った歌

 いにしへも かくやは人の 惑ひけむ 我がまだ知らぬ しののめの道
〇それに応えた夕顔の歌
 山の端の 心も知らで 行く月は うはの空にて 影や絶えなむ

〇その後陽が高くなり、光源氏が夕顔に贈った歌

 夕露に 紐とく花は 玉鉾の たよりに見えし 縁にこそありけれ
〇それに応えた夕顔の歌
 光ありと 見し夕顔の うは露は たそかれ時の そら目なりけり

 

〇夕顔が死去した後、光源氏が右近(夕顔の乳母子)の前で独り詠んだ歌

 見し人の 煙を雲と 眺むれば 夕べの空も むつましきかな

 

〇光源氏が病気になったと聞き、疎遠になっていた空蝉が光源氏に贈った歌

 問はぬをも などかと問はで ほどふるに いかばかりかは 思ひ乱るる
〇それに応えた光源氏の歌
 空蝉の 世は憂きものと 知りにしを また言の葉に かかる命よ

 

〇光源氏が小君に託して、軒端荻(伊予の介の娘;空蝉と間違い、光源氏と逢瀬)に贈った歌

 ほのかにも 軒端の荻を 結ばずは 露のかことを 何にかけまし

〇それに応えた軒端荻の歌

 ほのめかす 風につけても 下荻の 半ばは霜に むすぼほれつつ

 

〇夕顔の四十九日の法要で、光源氏が詠んだ歌

 泣く泣くも 今日は我が結ふ 下紐を いづれの世にか とけて見るべき

 

〇空蝉が伊予国に去ることになり、光源氏が小袿などの返却と共に餞別に詠んだ歌

 逢ふまでの 形見ばかりと 見しほどに ひたすら袖の 朽ちにけるかな

〇それに応えて、空蝉が小君に託し小袿のみについて詠んだ歌
 蝉の羽も たちかへてける 夏衣 かへすを見ても ねは泣かれけり


〇伊予国に去った空蝉を想い、光源氏が自分の心境を詠んだ歌

 過ぎにしも 今日別るるも 二道に 行く方知らぬ 秋の暮かな