相場を左右する指標の「横綱」の座が、米国雇用統計から米国CPIに変わりました。8月のCPI上昇率が事前予想より高かったということで、昨日のNYダウ(先物)は指標発表前から見ると、都合1500ドルも下げました。2年国債利回りは0.2%近く上昇しました。かつて米国雇用統計が予想外の70万人増となったときでも、ここまで大きくは動きませんでした。まして先日の雇用統計発表では、かつての関心が薄れたせいか、市場は静かな動きで終始しました。
かつての日本のディーリング・ルームでは、毎月第1金曜日の夜は、月に一度のビッグ・イベントで、一旦夕食を済ませ、中には東京温泉で身体を清めてからディーリング・ルームに入り、夏時間では夜9時半(冬時間では10時半)の雇用統計発表を待ち、その1時間後の市場の開始に備えて、雇用統計の結果を分析し、戦略会議などを開いて臨んでいました。今や米国CPI統計でこうした備えが必要になりました。
FRBが景気よりもインフレ鎮静を最優先するとの立場をとるようになり、金融政策に与える影響としては、雇用統計よりもインフレ指標が重要になったためです。その代表がCPIで、続いて発表されるPPIがこれに続きます。FRBはPCEデフレーターを注視していますが、この発表が遅いために、CPIで事前にある程度の予想ができるので、注目度はCPIが嫌でも高まります。
そのCPI、8月は前月比0.1%上昇、前年比8,3%の上昇と、前月のそれぞれ0.0%、8.5%と大きくは変わらず、前年比では7月より低下したのですが、市場予想よりやや高かったことになります。
それ以上にショックを与えたのがコアで、前月比0.6%上昇は市場予想0.3%の倍でした。前年比でも7月の5.9%から8月は6.3%に上昇し、「ピークアウト」でなかったことになります。
ここではウエイトの大きい「帰属家賃」が前月比0.7%も上昇した上に、当初主役だったガソリンやエネルギー関連が上昇一服となった反面、その他の費目に上昇が波及し、すそ野が広がったため、「2%の物価目標」復帰は絶望的に遠のいたと見られます。このため、年末での政策金利予想は4%台に、年明けには4.25-4.5%が見込まれるようになりました。そして指標が高止まりすることで、利下げ転換は24年以降に大きくずれ込むと見られます。市場はその調整をこれから余儀なくされます。