先生の家、そして本【後編】 | ハゲとめがねのランデヴー!!

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『深夜特急』にあこがれる妻(めがね)と、「肉食べたい」が口ぐせの夫(ハゲ)。
バックパックをかついで歩く、節約世界旅行の日常の記録。

 

本を渡すということ

 

 

 

 

メルボルンで語学学校の先生の家を訪れた際、本棚を見せてもらった。

 

わたしは他人の本棚を見るのが好きである。

知られざる趣味嗜好を覗き見する感覚で楽しいのだ。

 

先生と奥さんの本棚には村上春樹やカズオ・イシグロなど見慣れた名前もあり、かなり古そうなぼろぼろの小説類と一緒くたになって重なっていた。

 

先生の奥さんはわたしが本好きでありアボリジナルの歴史に興味があると知ると、

 

「よかったらこれを持って行っていいよ。

わたしは人にいつも本をあげるの。

旅の途中で重くなるだろうから、あなた次第だけど」

 

と言って2冊の本を見せてくれた。

 

1冊目は、アボリジナルの母親から引き離された「盗まれた世代」の子についてのノンフィクション。

もう1冊は、さまざまな分野で活躍するアボリジナルの人々へのインタビュー集だった。

 

「盗まれた世代」の自伝は以前読んだことがあったので、わたしは2冊目のインタビュー集をもらった。

荷物が増えるのが何だというのだ。

本の重さは情報と楽しみの重さなのだ。

 

 

そうして先生の奥さんに本をもらったときわたしは胸の奥が動くのを感じたのだが、それは現代用語ではきっと「エモい」というのであろう。

 

わたしは長旅に出るときはいつも、最悪の事態を覚悟することにしている。

出国前、形見分けのような気持ちで自分の本を夫の姪や甥に押し付けていったのだが、本を渡されたことに対してそのうちの一人は

 

「エモい」

 

と言っていた。

 

そして今まさにオーストラリアで、わたしはこの言葉の使い方を実感をともなって理解したのだった。

 

 

さて、実はわたしのほうも日本の作家の本をお土産に買っていた。

 

バリ島の本屋で見つけた、多和田葉子『星に仄めかされて』の英語版。

これはドイツに移住した日本人作家が書いた、言語をめぐる旅の話であり、旅するわたしが語学学校の先生に贈るにはぴったりだと思ったのだ。

 

「彼女はドイツ語と日本語で小説を書いている人で、きっとノーベル文学賞をとる。

そしてこれは言語がテーマの小説です」

 

と言って先生に渡した。

 

このユニークな作家の本を2人はどう読むのだろう。

 

気にいるかどうかはさておき、わたしが選んだ日本人女性の小説が先生の本棚に加わったということが、なんだか嬉しくなったのだった。

 

 

 

(先生の奥さんにもらった本。

 

紹介されている10人のうちの1人はキャシー・フリーマン。

2000年のシドニーオリンピック、女子400mの金メダリストである。

そのときにオーストラリア国旗とともに、アボリジナルの旗を持ってトラックを一周したことが話題になった。

 

この本の出版はそれ以前のことであり、本のなかで彼女はアボリジナルの歴史について知りたいという趣旨の発言をしているが、その言葉の延長線上にオリンピックでの出来事があるのだろう)

 

(メルボルンの本屋で見つけたロビン・デイビッドソンの自伝。

彼女はかつてラクダと犬を連れてオーストラリアの砂漠を横断し、『Tracks』という本にまとめている。

 

この本で彼女はたしか、「自分は特別に強い人間ではない、誰でもできることだ。でもやると決断するのが一番難しい」という趣旨のことを書いていた。

その言葉にどれだけ勇気づけられたか。

 

ワーホリ中、滞在していたファームのある田舎町で、たまたまロビンの講演会があると知った。

あまりのタイミングに運命だと思いチケットをとった。

ほとんど聞き取れなかったけれど、憧れの人に会えた感動と興奮はずっと私の中で消えない。

 

そのとき「今、自分の過去について書いている」と言っていた本が発売されているのを、今回メルボルンで発見。

しかもサイン本。

やばい泣きそう)

 

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