夫の腸チフス闘病記【① 発症】 | ハゲとめがねのランデヴー!!

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『深夜特急』にあこがれる妻(めがね)と、「肉食べたい」が口ぐせの夫(ハゲ)。
バックパックをかついで歩く、節約世界旅行の日常の記録。

 

高熱の夫

 

メルボルンに着いたその日から闘いは始まった。

 

夫はバリ島の最終日あたりから関節痛があると言って、めずらしく美術館で座り込んでいたので、本人もわたしも異変は感じていた。

 

そしてメルボルン一日目の夜。

夫は高熱を出し、悪寒でぶるぶる震えはじめた。

 

夫は元来身体が強い。

旅の間わたしは下痢や軽度の風邪にしょっちゅうかかっているが、夫はケロッとしている。

一度は2人で高熱を出したが、そのときは持参した薬を飲んで寝ていたら治った。

 

しかし今回は様子が違う。

夫の熱は39度以上になり、毛布をかぶってもまだ寒いと言う。

 

夫は病院に行くのを嫌がったが、たまたま宿の近くに日本語が通じる病院がある。

診察の予約をとり、まずはコロナとインフルエンザの検査。

さらに次の日結果を聞くと結果はどちらも陰性であり、血液検査を行うことになった。

 

夫に咳や鼻水などの症状はないため「やっぱりコロナ•インフルではないな」と思った。

そして血液検査の結果が出るまで耐えるだけの日々が長引く。

 

悪寒、高熱、発汗、解熱剤が効いて平熱以下への急激な解熱。

このサイクルを夫は繰り返している。

 

われわれはメルボルンの前インドネシアにいた。

観光したのは比較的都市部のみであったとはいえ、マラリアの可能性もある。

 

出国前に読んだ有吉佐和子の本には、ニューギニアからの帰国後マラリアを発症したときのエピソードがあった。

それはそれは危険な状態であり、わたしにはその本の印象が強く残っていた(『女二人のニューギニア』)。

 

治療が遅れると命に関わるのではないか。

とにかく早く特定してくれ。

 

数日待ってやっと血液検査の結果が出た。

そこでわかったのは「どうやらマラリアではない」というもので、原因の特定にはいたらなかった。

 

 

症状は続く

 

マラリアではないということに安堵したものの夫の高熱が下がる徴候もなく、わたしはますます不安になった。

 

夫はもともと我慢強い性質であるうえ、夫が病院に行くのはいつも薬が効いて熱が極度に低いタイミングであった。

40度にもなる高熱や身体を揺らすほどの悪寒など、目に見えるしんどさが医師に伝わっていないのではないか。

そうわたしは疑っていた。

 

よく母が祖母について、

 

「介護認定の審査の日に限ってしっかり受け答えするのよ……」

 

とこぼしていたのを思い出す。

夫よ、なぜ病院ではケロッとしているのだ。

 

わたしは文字通り「もう限界だ」と医者に訴えた。

高熱が1週間続いている夫が体力的に限界なのはもちろん、わたしも限界であった。

 

わたしは夫の生命が自分の判断にかかっているという状態にまいっていた。

 

夜中、夫が悪寒で震えはじめるといつも「救急車を呼ぶべきかそれとも放置していいのか」と選択を迫られた。

いつも高熱のあと発汗し熱は下がったが、今度も下がるという保証はないではないか。

 

それが数日続くと、わたしはあまりの眠さに夫が悪寒で震えていても起きられなくなってしまった。

「もしものときに熟睡していて救急車を呼べなかったらどうしよう」という恐怖があり、寝る前にコーヒーを飲んだりもした。

夫が高熱と闘っているあいだ、わたしは自分の判断力がどんどん低下していくのがわかった。

 

医師はわたしの訴えにうなずきながら、「これはデング熱ではないかと思う」と自分の見立てを説明した。

すぐに感染症の専門医がいる別の病院に紹介してくれるという。

 

少しでも早く適切な治療が受けられるなら行こう。

 

そう決めたあと、すぐに事態は動き出した。

病院の女性スタッフはみなテキパキとしており、わたしも保険会社に電話し必死で状況を説明した。

海外旅行保険を使うのは初めてであり、何もかも経験がなかった。

 

その間夫はいつもどおりぼーっとしていた。

要領をえない受け答えをしており、それは高熱のためかもしれないけれども普段からそうであるので、わたしはかなりイラだった。

 

タクシーを呼び、10分ほどで私立病院に着く。

そして病院の入り口で、日本人の通訳さんと合流。

初めて外国の病院の救急外来に入ったのだった。

 

②へ続く。

 

(メルボルン、NGV(ビクトリア国立美術館)は、中心部南側にある美術館。

わたしが大好きなアボリジナル(オーストラリア先住民)のアートを無料で見ることができ、非常時のなか気持ちを癒してくれた)

 

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