320)登山は前日の天候も大切 | 峠を越えたい

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戻るより未だ見ぬ向こうへ

 内浦辺りに宿泊して駿河湾の海や富士山やそれらを覆う青空を眺めてみたい。沼津市千本浜から西に延びる海岸線も見えるかも知れない。翌日発端丈山へ登ろう。泊まれる宿を捜しました。ひとり旅だと中々難しいんです。S旅館が大丈夫そうなので、では一泊のお代は。うーん、3.0止まり、或は3.5以内ならば、などと少し奮発する気になりました。恐らく素晴らしい眺めでしょうから。しかし5.0<となると身分不相応です。S旅館は今回諦めます。太宰治ゆかりのY旅館は一人では受けつけてくれないようです。仕方ない、沼津の町なかのビジネスホテルを予約しました。S旅館やY旅館は三津シーパラダイスにごく近いですが、もっと西へ、大瀬崎方向に行った西浦に民宿を思いがけなく予約できることになって、沼津の方はキャンセルしました。確かYouTubeで食事の良さと富士の眺めを褒めていた数分の動画だったしょうか、たまたま見かけました。そうか、この辺りの海岸に沿っては昔から民宿が沢山並んでいたんだ。連絡して宿泊OKを取りました。

 訪ねた当日は土砂降りの雨。灰色の雲に覆われた空と雨が打ち付ける灰色の海。バスを降りて宿へ向かう坂道の道路は雨水の流れ。民宿の玄関に入ってやれやれ。天気が良くなるらしい翌日が期待です。こんな景色では気分が暗いですが、明日は晴天の予報だと思えば今日の空もまた楽しい思い出になりましょう。しかもN旅館の夕飯が素晴らしかった。旨いものばかりの中で一つ、金目鯛の煮付けを挙げておきます。目の前に海の宿屋です。大きい蜜柑箱が空けてあって幾つでも食べて下さいと。遠慮したためか複数取らず。沼津市西浦は蜜柑で有名なのでした。そんなわけでその日の風呂はどんよりした空を見ながらでしたが、明くる日早朝の風呂に浸かって仰ぐ、青空、青い海、愛鷹山を従える富士山は格別でした。

 宿泊代<1万円では恐縮してしまいます。おまけに発端丈山登り口辺りまで車で朝送ってくれることになりました。翌朝、車内でのご主人との会話です。昔スカンジナビア号が木負湾(きしょうわん)に投錨していて、レストランとホテルが営業されていたんですよね、と話しを向けると、スウェーデンに船が帰ることになって、出航して途中で沈んでしまうという事件もお互いに知っていました。こちらには何十年停泊していたんだか、帰る頃水漏れがして修理したんだそうです。直したはずが出航後ほどなく太平洋で沈んでしまったのには、何か黒い噂が飛び交いましたよねーと。スカンジナビア号に宿泊したことはないものの、N市立病院の忘年会の会場がここで、船名に相応しいバイキングにて美味の生牡蠣を競って目指したこと、ゆったりとした船の揺れが記憶にあります。

 ご主人にお礼を言って、「発端丈山ハイキングコース 重須口」近くで車から下ろして貰います。登山道も前日の大雨のため道路を水が流れ下っていたりします。でも粗い舗装がしてあって、ドロのぐちゃぐちゃではないです。急ではありますが登って行きます。所がこともあろうに、何故途中で引き返す事態になったか。国土地理院地図を示します。

 登った先が発端丈山の頂上に繋がっていません。しまったと思いましたが致し方なし。登り出し地点に戻るしかない。事前の経路検討を怠った報いです。海岸通りまで下りてシーパラダイス方向へ歩きました。でもですよ、重須(おもす)登り口には「発端丈山ハイキングコース」と書かれていました。もしかすると頂上に行けるのでは、という残念な気持ちが消えません。(後で地図を良く見ると南側へ迂回した道は遠回りして逆方向から発端丈山に繋がっています)

ではちゃんとした登り口へ。

 

 もう一つ地図を載せます。『山と高原地図 伊豆』(昭文社、2021)より、

 重須でなく、長浜から登り始めなければいけなかったんです。登山道は分かって来ましたが、何せ急勾配です。一応「急坂」とは書かれています。ここでも前日の大雨に祟られ、ぬかるんだ急な道は滑ります。道はまた狭い。何とかなるんだか途中で不安が募ります。でも余程急でつるつるの道には片側にしっかりと打ち込まれた金属棒にロープが巻かれていて、正に命綱です。それと所々の木々に赤いテープが付けられていて、迷子にはなりません。急な斜面を乗り越えたときにはほっとしました。途中の急斜面の葛折りの道は地面の色ばかりの記憶で周囲の有様は殆ど覚えていない。無事に頂上に立った証しです。

 

 山頂から葛城山方面へ主に下りだった道は何と楽だったか。ちょとぬかったところはありましたが。葛城山分岐にて10人ほどのパーティー(葛城山から下りて来た)に出会い、葛城山山頂に行くにはどの位掛かるか聞いたところ1時間半は見たほうが良いのでは、と言われ、脇を見ると下って行く道が目に入り、「長瀬まで30分」との立札があります。発端丈山への登りで力を使い果たしていたので本当は葛城山山頂でロープウェイにすがろうと思っていたものの、「30分」を選んでしまう軟弱さでした。ところが一難去ってまた一難の状況になることを予期していませんでした。大量の雨の降った前日を甘く見ていました。川の流れがあふれて道も何カ所も川と化しています。でもずっと粗いコンクリの道であったため泥道になっておらず幸いでした。靴の中はびしょびしょです。長瀬バス停で伊豆長岡駅行きバスに乗れることを夢見て頑張りました。

 さて海側(北側)からの発端丈山登山は私にだけきつかったのか。一般の登山者には道が急なだけなのか。「沼津ハイキングMAP」は“初心者でも気軽に登ることができるハイキングコース”と唱っています。それには一つ条件がありますね。前日大雨の降らないこと。

 発端丈山頂上からの富士山を忘れるところでした。