295)「函館」本線と「箱根」湯本 | 峠を越えたい

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 「箱」と「函」は一緒の意味でしょうか。普通「函」は「はこ」とは読みませんが。でも例えば広辞苑を引くと”はこ【箱・函・筥・匡の中が甲・筺】”と漢字が五つ出て来ます。「函館」が「箱館」であった時代があるものの、「箱根」が「函根」と名乗った例は見つかりません。

 伊能小図(伊能図大全より、河出書房新社、渡辺一郎監修、2013)を掲げます。

 地図は南北をひっくり返しています。「箱館」と書かれています。この当時函館山は薬師山と呼ばれていたようです。コンサイス地名辞典 日本編(三省堂、1975)が大変役立ちました。

 建物を築いたからといって、それに因んだ名前を付けてしまうなんて随分安易に改称するものです。「宇須岸」で良かったのに。「箱」が「函」に変わったのはどんな経緯でしょう。『函館市』(Wiki.)は更に詳しく語っています。「地名の由来」より、

 “室町時代享徳3年(1454年)、津軽の豪族河野政通函館山の北斜面にあたる宇須岸(うすけし、由来はアイヌ語で「入江の端」・「湾内の端」を意味する「ウスケシ」・「ウショロケシ」)に館を築き、形が箱に似ていることから「箱館」と呼ばれるようになった[18][19][20]。このほか、アイヌ語の「ハクチャシ[21]」(浅い・砦)に由来する説もある[19]

明治2年(1869年)に蝦夷地北海道となり箱館も「函館」と改称された[18]。一説には北海道開拓使の長官に着任した東久世通禧が漢字に造詣が深く「箱」の字を気に入らず「函」に改めたという[20]。ただし、箱館を函館と改めた時期について『函館市史』では、1876年(明治9年)に至っても太政官日誌が箱館と函館を混用しているので、明治2年(1869年)に改名したとの説は論外であるとしている[22]。”

 兎も角幕末までは「箱館」でした。従って箱館奉行、箱館戦争、日米修好通商条約にて開港された箱館港などに「函館」成る漢字を用いたら歴史の試験では如何なる結果になるやら。逆に北海道新幹線の今のところの起点と終点はと問われて新青森から箱館北斗と書く人はいないでしょうね。

 「箱根」の話に移ります。再びコンサイス地名辞典(三省堂)に頼ります。

 「函嶺(かんれい、はこね)」という古い呼び名を記してくれました。そう言えば箱根駅伝で箱根湯本駅を過ぎて登って直ぐに「函嶺洞門」があります。と言っても今はバイパスが出来てランナー達はその脇の道路を走ります。この熟語を「はこね」と読むのは何だか新鮮です。なお日本国語大事典では「はこね【箱根・筥根】」と見出しは書かれています。

 熱海駅を出て丹那トンネルを潜った列車は函南駅に着きます。この駅名の由来は大いに関わりがあるでしょう。コンサイス地名辞典では当て外れでしたが、『函南町』(wiki.)にはちゃんと記されています。

 “伊豆半島の付け根に位置する町で、箱根(別名:函嶺)の南に由来する町名[4]に表れるように、箱根山の南西麓と、そこから南へと続く丹那山地の山稜西側の丘陵地に加え、田方平野の一角を町域とする。

自然環境は、山間地に標高1000メートルクラスの山があり、箱根山鞍掛山玄岳に囲まれた豊かな自然環境を有している。………

 近隣の村々の合併した明治時代に考え出された名称のようです。『七人の侍』のロケ地だったと聞いたことがあります。

 他に地名を考え巡らすと、小樽の西に「銭函」駅、博多駅の少し東に「箱崎」駅。「ぜにばこ」と「はこざき」を入力すると過たない漢字が現れるのでPCは大したもんです。「函谷鉾町」(かんこぼこちょう)は京都市下京区にある地名で、祇園祭に於ける山鉾の名前に因みます。

 「函」は「はこ」以外に、書状、封書の意味があります(『新漢語林』、大修館)。「投函」については“定められた箱に、用紙を投げ入れること。特に、郵便物、投票用紙をポストや投票箱に入れること。”と日本国語大事典が言います。「潜函」という熟語もありますね。決まった用途に使われる「はこ」が「函」であると幾分こじつけたいと思います。

 銭函駅の命名の由来が載っていました。「銭函駅」(Wiki.)を開いたら“詳細は「銭函」参照”とあって、その「銭函」(Wiki.)の「地名の由来」では、

 “和名と思われ、いつもニシンが大量にとれたため、「銭函」となったとされる[3]

このほか、ニシン漁により、当時はどの漁師の家にも銭箱が積まれていたから、とする説明などがある[4]”。

 なぜ「銭箱」にしなかったのでしょうか。函館本線の駅であることに関わりありそうですか。全国では「箱」の付く地名はいくらでも出て来ますが、「函」の使われた地名や物品名は非常に限られます。広辞苑で「はこ……」を追ったところ、「筥迫・函迫」(はこせこ)、「箱樋・函樋」(はこひ)が現れました。