あらすじ
答えてください。娘を殺したのは私でしょうか。
東野圭吾作家デビュー30周年記念作品。娘の小学校受験が終わったら離婚する。そう約束した仮面夫婦の二人。彼等に悲報が届いたのは、面接試験の予行演習の直前。娘がプールで溺れたー。病院に駆けつけた二人を待っていたのは残酷な現実。そして医師からは、思いもよらない選択を迫られる。過酷な運命に苦悩する母親。その愛と狂気は成就するのか。愛する人を持つすべての人へ。
答えてください。娘を殺したのは私でしょうか。
東野圭吾作家デビュー30周年記念作品。娘の小学校受験が終わったら離婚する。そう約束した仮面夫婦の二人。彼等に悲報が届いたのは、面接試験の予行演習の直前。娘がプールで溺れたー。病院に駆けつけた二人を待っていたのは残酷な現実。そして医師からは、思いもよらない選択を迫られる。過酷な運命に苦悩する母親。その愛と狂気は成就するのか。愛する人を持つすべての人へ。
ひと言
脳死・脳死判定と臓器提供。こんな答えを出せない問題を取り上げた作品で、さすが東野圭吾、ぐいぐいと引っ張られて一気に読ませてくれます。脳死や判定基準、海外での臓器移植の問題など知らなかったことも多く、勉強になりました。この作品も間違いなく映画化されると思いますが、多くの人が考えさせられる作品になることを願っています。
脳死・脳死判定と臓器提供。こんな答えを出せない問題を取り上げた作品で、さすが東野圭吾、ぐいぐいと引っ張られて一気に読ませてくれます。脳死や判定基準、海外での臓器移植の問題など知らなかったことも多く、勉強になりました。この作品も間違いなく映画化されると思いますが、多くの人が考えさせられる作品になることを願っています。
「君はどう思う?」そんなことを訊かれてもわからない、と答えるのではないかと和昌は予想した。だが薫子は少し首を傾げ、黙っている。やがて、前に公園で、と□を開いた。「クローバーを見つけたの。四つ葉のクローバー。あの子が自分で見つけたのよ。ママ、これだけ葉っぱが四枚付いてるって。それで私、わあすごいね、それを見つけたら幸せになれるのよ、持って帰れば、といったの。そうしたらあの子、何ていったと思う?」訊きながら和昌のほうに顔を巡らせてきた。わからない、と彼は首を振った。
「瑞穂は幸せだから大丈夫。この葉っぱは誰かのために残しとくといって、そのままにしておいたの。会ったこともない誰かが幸せになれるようにって」胸の奥から何かが込み上げてきた。それは忽ち涙腺まで達し、和昌の視界をぼかした。「優しい子だったんだな」声が詰まった。「ええ、とても優しい子よ」「君のおかげだ」和昌は指先で涙をぬぐった。「ありがとう」
(第一章 今夜だけは忘れていたい)
「参ったな。君にはかなわない」「今頃わかったの? ちょっと遅すぎない?」たしかに、と笑ってから真顔に戻って妻を見つめた。「君には苦労をかけた」薫子は、ゆっくりとかぶりを振った。「苦労だなんて思ったことない。幸せだった。瑞穂の世話をしている時、この子を産んだのは私で、その命を守ってるんだっていう実感があって、とても幸せだった。傍目には狂った母親だと見えたかもしれないけれど」「狂っただなんて、そんな……」でもね、といって薫子は遺影を見上げた。「この世には狂ってでも守らなきゃいけないものがある。そして子供のために狂えるのは母親だけなの」和昌に視線を戻した。不気味なまでに力強い目をして続けた。「もし生人が同じことになったら、きっとまた私は狂う」静かな口調だが、その言葉に和昌は圧倒された。彼女の目を見返すしかなかった。薫子は、ふっと頬を緩めた。「もちろん、命を捨ててでもそんなことは防ぐけどね」「俺もだ」
(第六章 その時を決めるのは誰)
「死亡診断書に従えば、四月一日の午後一時ということになります」「それを受け入れると?」さあ、と彼は腕組みをした。「本音をいえば、それは違うんじゃないかと思います。臓器提供に同意した場合のみ、脳死判定を行い、確定すれば死亡とする。同意しなければ判定は行われず、当然死亡したとみなされることもない」――どう考えてもおかしな法律です。脳死が人の死だというなら、あの事故が起きた夏の日、瑞穂は死んだことになる」「ではあの日があなたにとっての命日だと?」いや、と和昌は首を捻った。「それもまた抵抗があります。あの日、瑞穂はまだ生きていると感じたのも事実ですから」「では、奥様の意向を尊重されますか」うーん、と彼は唸り、こめかみに手を当てた。「そうですね。やっぱり私は保守的に考えたいです。脳死は人の死じゃない。瑞穂が死を迎えたのは、臓器が摘出された四月二日ではないでしょうか」「保守的とは?」「つまり、心臓が止まった時、という意味です」すると進藤は口元を緩め、和昌に笑いかけてきた。「だったら、あなたにとってお嬢さんはまだ生きていることになる。この世界のどこかで彼女の心臓は動いているわけですから」「あ……なるほど」進藤がいっている意味を理解した。瑞穂の身体からは心臓も摘出され、どこかの子供に移植されたと聞いている。この世界のどこかで、かー。そう考えるのも悪くないな、と和昌は思った。
(第六章 その時を決めるのは誰)
「瑞穂は幸せだから大丈夫。この葉っぱは誰かのために残しとくといって、そのままにしておいたの。会ったこともない誰かが幸せになれるようにって」胸の奥から何かが込み上げてきた。それは忽ち涙腺まで達し、和昌の視界をぼかした。「優しい子だったんだな」声が詰まった。「ええ、とても優しい子よ」「君のおかげだ」和昌は指先で涙をぬぐった。「ありがとう」
(第一章 今夜だけは忘れていたい)
「参ったな。君にはかなわない」「今頃わかったの? ちょっと遅すぎない?」たしかに、と笑ってから真顔に戻って妻を見つめた。「君には苦労をかけた」薫子は、ゆっくりとかぶりを振った。「苦労だなんて思ったことない。幸せだった。瑞穂の世話をしている時、この子を産んだのは私で、その命を守ってるんだっていう実感があって、とても幸せだった。傍目には狂った母親だと見えたかもしれないけれど」「狂っただなんて、そんな……」でもね、といって薫子は遺影を見上げた。「この世には狂ってでも守らなきゃいけないものがある。そして子供のために狂えるのは母親だけなの」和昌に視線を戻した。不気味なまでに力強い目をして続けた。「もし生人が同じことになったら、きっとまた私は狂う」静かな口調だが、その言葉に和昌は圧倒された。彼女の目を見返すしかなかった。薫子は、ふっと頬を緩めた。「もちろん、命を捨ててでもそんなことは防ぐけどね」「俺もだ」
(第六章 その時を決めるのは誰)
「死亡診断書に従えば、四月一日の午後一時ということになります」「それを受け入れると?」さあ、と彼は腕組みをした。「本音をいえば、それは違うんじゃないかと思います。臓器提供に同意した場合のみ、脳死判定を行い、確定すれば死亡とする。同意しなければ判定は行われず、当然死亡したとみなされることもない」――どう考えてもおかしな法律です。脳死が人の死だというなら、あの事故が起きた夏の日、瑞穂は死んだことになる」「ではあの日があなたにとっての命日だと?」いや、と和昌は首を捻った。「それもまた抵抗があります。あの日、瑞穂はまだ生きていると感じたのも事実ですから」「では、奥様の意向を尊重されますか」うーん、と彼は唸り、こめかみに手を当てた。「そうですね。やっぱり私は保守的に考えたいです。脳死は人の死じゃない。瑞穂が死を迎えたのは、臓器が摘出された四月二日ではないでしょうか」「保守的とは?」「つまり、心臓が止まった時、という意味です」すると進藤は口元を緩め、和昌に笑いかけてきた。「だったら、あなたにとってお嬢さんはまだ生きていることになる。この世界のどこかで彼女の心臓は動いているわけですから」「あ……なるほど」進藤がいっている意味を理解した。瑞穂の身体からは心臓も摘出され、どこかの子供に移植されたと聞いている。この世界のどこかで、かー。そう考えるのも悪くないな、と和昌は思った。
(第六章 その時を決めるのは誰)




















