体の健康において欠かせない「鉄」。過剰摂取による悪影響が心配されていますが、体には食べ物による鉄の過剰摂取から守る厳格なシステムが備わっています。私たちの体が鉄とどのように結びついているのか解説します。

「鉄分の過剰摂取は体に悪い」という話が出回っていますが、これには大きな間違いがあります。体には大量の鉄分を食事やサプリメントなどから摂ったとしても、栄養素を吸収する腸管内で制限するシステムが備わっているのです。
鉄の過剰症は、たしかに体への悪影響がありますが、過剰症になる原因は治療時による非生理的な摂取によって起こります。
余分な鉄は腸管から吸収しない高度な制御システム
十二指腸や小腸上部から吸収された鉄は、鉄の供給が充分であるときは、腸の上皮細胞にフェリチンとして貯蔵されます。フェリチンが細胞内で飽和すると、腸上皮細胞はそれ以上の鉄を取り込みません。腸の上皮細胞は鉄の吸収を担うだけではなく、鉄の一次貯蔵庫としても機能しています。
上皮細胞内に蓄えられた鉄は、鉄の需要があるときは体内に移行しますが、腸上皮細胞の寿命は約2日間であり、余分な鉄は小腸の粘膜ごとはがれ落ちて、便として排泄されます。私たちの体は巧妙かつ厳密に制御された鉄代謝を有し、欠乏と過剰を防ぐシステムを備えています。
体内への鉄の取り込みを制御している「ヘプシジン」
ヘプシジンは鉄過剰の時に肝臓から分泌され、鉄トランスポーターであるフェロポーチンに作用して血清中の鉄量を制御し、腸からの鉄の吸収や、マクロファージおよび肝細胞における鉄の放出を減少させます。
ヘプシジンは、感染や腸の炎症、脂肪肝、歯周病などの炎症がある時に、IL(インターロイキン)6の働きによりへプシジンが合成され、鉄の移動をブロックする作用があります。腸からの鉄吸収は抑えられ、脾臓からマクロファージを通じての鉄供給も抑えられます。一方、血液中の鉄が少なかったり酸素欠乏の状況ではヘプシジンの合成は減少し、生体は鉄を吸収しようとします。
体の中で行われる鉄への制御
鉄イオンは、酸素と結合しやすい性質を有するとともに二価鉄と三価鉄を行き来することで生体の酸化還元反応を触媒し、私たちの細胞の代謝、分裂、増殖になどに欠かせないものです。
一方で、鉄原子は活性酸素の発生に関与し細胞毒として働きますので、肝細胞内でもマクロファージ内でも、毒性が発生しないようにタンパク質に結合した形態で存在しています。
私たちの体は、この重要性と危険性を併せ持つ鉄を各臓器間でやりとりするために、吸収、貯蔵、輸送などのために高度な制御システムを備えているのです。