「鉄」は体にとって非常に大切な栄養素であるにもかかわらず、不足しがちな栄養素の1つです。ここでは、鉄の種類や役割など、鉄に関する基本的な内容についてご紹介していきます。

体に必要な栄養素として知られる「鉄」。実はその役割や必要性を知らない方がたくさんいます。女性の美と健康においても重要な鉄の基本情報についてご紹介いたします。
必須栄養素「鉄」の役割は大きい
鉄は、人体に必要なミネラルの一種です。鉄不足と言うと、皆さんは貧血が頭に浮かぶかもしれません。たしかに、鉄は赤血球の主要成分であるヘモグロビンを構成する成分であり、体中に酸素を運ぶための重要なポイントです。しかし、それは鉄が持つたくさんの役割のひとつに過ぎません。ヘモグロビン値が正常でも、鉄が不足することで身体や精神の症状がみられることがあります。
鉄は吸収されると体のどこへいくのか?
食物中では、「ヘム鉄」「非ヘム鉄」として存在しています。そして、食物を通して体内に吸収されると、赤血球となる「機能鉄」と肝臓や脾臓および骨髄に蓄えられる「貯蔵鉄」の主に2つの形態をとります。貯蔵鉄は、機能鉄が不足した場合、血液中に放出されて機能鉄として働きます。
機能鉄
(1)ヘモグロビン…
ヘム(鉄)とグロビン(タンパク)から成り、赤血球に含まれています。ヘモグロビンの鉄はもっとも含量が多く、体内の総鉄量の6~7割を占めます。
(2)ミオグロビン…
筋肉内の酸素を運んだり、貯蔵を行います。筋収縮のためのエネルギー産生のために貯蔵しています。足りないと持久力が低下してしまいます。体内の総鉄量の3~5%を占めます。
(3)チトクローム…
チトクロームはa、b、cに分けられ、全身の細胞内のミトコンドリアの中にあるエネルギー(ATP)生産工場である「電子伝達系」の構成要素です。一方、肝臓にある「チトクロームP450」はクスリの解毒に関与しています。鉄が足りないと、クスリの効果が強くなりすぎたり、副作用が出やすくなることがあります。
(4)カタラーゼ…
活性酸素を消去してくれます。鉄が足りなくて若いのにシミができる。シミができやすい人がいます。出産後にシミが増えた方はいませんか?表皮細胞、メラノサイト、線維芽細胞などあらゆる皮膚細胞に存在し,自然光に含まれる紫外線などの光ストレスによって生じた活性酸素傷害を防御しています。
(5)ペルオキシダーゼ…
白血球中において活性酸素によりウイルスをやっつけますが、この時にこの酵素が必要になります。貪食・殺菌能をもつ顆粒球,単球は,細胞質顆粒中にペルオキシダーゼを有し,その酸化作用によって殺菌能を増強します。鉄が足りないと風邪をひきやすくなります。
貯蔵鉄
フェリチンやヘモジデリンとして、肝臓や脾臓、骨髄の網内系組織などに貯蔵されています。体内の総鉄量の1/3を占めます。へモジデリンはフェリチンの凝集塊と考えられています。血液検査による血清フェリチン値は貯蔵鉄量の推定、鉄欠乏の程度の評価するに有用です。
運搬鉄
(1)トランスフェリン…
鉄を運ぶタンパク質のことで、これは肝臓で作られます。トランスフェリンの血中濃度は血液検査でTIBC(Total Iron Binding Protein)として測定されます。トランスフェリンの半減期は1~3日と短く、体内で活発に代謝されています。少々タンパク質が足りなくてもトランスフェリンはリサイクルで補われます。トランスフェリンが低いのは、長期のタンパク欠乏を意味します。トランスフェリン鉄は、体内の総鉄量のわずか0.1%です。
(2)ヘモペキシン、ハプトグロブリン
溶血によって血管内にヘモグロビンが放出されると、ヘムはヘモペキシンに、ヘモグロビンはハプトグロビンに結合します。これらは肝臓に運ばれて、鉄が取り出されて再利用されます。
1日に必要な鉄の摂取量
1日あたりの必要摂取量は、性別、年齢、病態、合併症などによって異なり、個体差が非常に大きいものです。
また、有経女性や妊婦、成長期のお子さん、アスリート、痔がある男性などでは鉄の必要量が多くなります。女性では経血の量が多いほど鉄の必要量も多くなります。鉄が足りない人に鉄を補う場合の最適量は、その人の便が「便が黒くなるかならないか」の量といえます。
鉄不足は、「炭水化物に偏った食事」の方に多くみられます。魚や肉などのおかずが少なければ、必然的に鉄が不足しやすくなります。
体における鉄の出入り
一般に成人では、経口摂取した鉄10mg程度の約10%にあたる1mgが毎日吸収されます。そして、消化管において潜血や粘膜として、はがれ落ちたり胆汁として失われます。汗や尿や脱落した表皮としても失われ、毎日計1mgが失われます。
鉄の体内での循環
ヒトには、少ない貴重な鉄を無駄なく活用する仕組みが備わっています。骨髄は赤血球(ヘモグロビン)を合成するために、赤血球の前駆細胞である赤芽球が造血に必要な鉄を、血中から通常1日に約20~25mg取り込みます。これによって血中の鉄は不足しますが、その分は脾臓に貯蔵された分から血液中に補充される仕組みになっています。
骨髄で新たに作られる赤血球は約120日で老化します。老化した赤血球は、主に脾臓内のマクロファージという白血球の一種の食細胞が、食べて分解することにより、掃除されます。それによって、一日に20~25mgの鉄を回収することができます。このとき、老化赤血球にあった鉄は、ヘモグロビンからフェリチンへと移行したのちに貯蔵されます。こうして貯蔵された鉄の一部が、常に血中に供給され、鉄は一定の鉄量を維持しています。
血中に過剰な鉄が存在する場合、余分な鉄は肝臓に取り込まれて貯蔵鉄となります。この貯蔵鉄は、血中の鉄が欠乏している場合にだけ血中へと補充されますが、通常の鉄循環には加わりません。
なぜ女性が鉄不足になりやすいのか?
女性は月経によって定期的に鉄分が排泄されてしまうため、鉄不足になりやすい傾向にあります。日本の女性の平均月経量は60ml程度(鉄量30mg相当)です。そのために、一日あたり1mgは月経で失っている計算になりますので、トータルで鉄は毎日2mg失っていく計算になります。
また、妊娠中も胎児を育てるためにより多くの鉄が必要であり、出産時も多くの鉄が失われます。この時期は一日あたり3mgの鉄が必要となります。妊娠後半は鉄の吸収率も上がっていきます。
鉄の過不足の評価は医療機関で
鉄の過不足の評価は単に貧血があるか否かではありません。医師の下で定期的に必要な血液検査項目を行い、鉄の過不足や利用障害がないか、自分の今の症状と照らし合わせて評価してもらうといいでしょう。