5年ぶりの北京(6)~投訴2 | 小春日和日記

小春日和日記

日々の出来事や旅行記、趣味のメダカ、時事問題など。

さて、前回の続き。

 

銀行での交渉ごとがあった2日後の夜、夫と、ホテルの1階にあるレストランへ行った。

レストランの入り口の前にホールのような空間があって、そこを入口に向かって歩いていると、突然体ががくっと崩れ落ちた。

一瞬何が起こったのかわからなかった。

ぴかぴかに磨かれたまっ平な床を普通に歩いていたつもりなのに、踏み出した足が宙を切った。3段ほどの階段があって床が下がっていたのに全く気が付かなかったのだ。階段の手前も向こう側の床も同じ材質、同じ色で、段差の角度も急なので、遠目にはずっと平らな床に見える。近くまでこなければそこに段差があることに全く気づかない。

 

夫は、後になって「注意して、階段がある、と言ったのに。」と言った。

確かに、倒れる瞬間の数秒前、夫が何か言ったのは耳に入っていた。

でも何を言ったか、言葉として頭で理解していなかった。

 

レストランの店員が2人駆け寄ってきて、床に倒れている私に声を掛ける。

「大丈夫ですか。」

チャイナドレスを着たスタイルのいい美しい女性たちだ。

「すぐに動かない方がいいから、起きないでじっとしていて。」

美しく優しい声、すごくありがたかった。

肉体的な痛みはもちろん、何が起きたのかショックを受け止めきれなかった私は冷たい床にしばらく横たわっていた。

 

幸いなことに、腰に腰痛用のコルセットをはめていたので、足を踏み外した時、腰をひねらずまっすぐに倒れこむことができた。前の日コルセットが苦しいのではずしていたら、夫に「しておいたほうがいい。」と言われ、この日は着用していたのだ。

おかげで、膝から腿のあたりを多少打っただけで済んだ。

しばらくしたら痛みも引いた。

 

実は、夫が1年ほど前にここに来た時も、一緒にいた友人が同じ場所で、同じように足を踏み外して倒れたのだと言う。

レストランのテーブルについてから、夫が店長にそう説明する。

だから1年前にも注意を促した、なのに何の対策もとられていないじゃないか、と。

 

夫が私に言うには、あそこではしょっちゅう誰かが足を踏み外してるはずだ、だから店員も入口で注意して見ていたに違いない。

そうかもしれない。入口からは数メートル離れているし、間には装飾品もあって見通しが悪いにもかかわらず、チャイナドレスの美しい女性たちは、私が倒れてほとんど間を置かずに駆け寄ってきたし、掛ける言葉も慣れている感じであった。

 

責任者の謝罪があり、幸い体は大丈夫のようだし、そこで話は終わったと思っていた。

そしたら食事後に、ホテルの制服を着た3人の女性がさらに謝罪に現れた。

 

私は中国語は全部は聞き取れていないので、夫が呼んだのかレストランの店長が呼んだのかはわからない。

支配人と思われる女性は(やはり女性だ、中国は女性の地位が高いとつくづく思う。)、とても親身に私の体を心配してくれた。

ホテルの箱入りの高級アメニティーまでいただいた。

 

夫と店長や支配人との一連のやり取りの中で、銀行での出来事と同じく「投訴」というキーワードが出ていたのが印象に残った。ただ、銀行の時とレストランの時と「投訴」する先の名称を変えていたので、これは中国の組織の仕組みをよく知っていないと使えない言葉かもしれないと思う。

 

 

銀行での出来事といい、こういうやりとりは、時間を食うよね、と私は夫に言う。

 

しばしばあるこのような夫の対応を見ていて、銀行はこちらの利害があるから引き下がるわけにはいかなかったけれど、こんなにとことんやらなくてもいいんじゃない?と思う時がある。

クレームをつけることでそのやりとりに逆にこちらの時間と労力が消耗されて、損をするような気がする。

 

すると夫は、そうしないと社会が改善されないと言う。

まあ、そうかもしれないけど。

 

レストランでの件も、1年前のことがなかったらここまで強くは言わない。改善されてなかったから言ったんだ、と。

 

レストランの店長は、

あそこを通るのはレストランの客がほとんどだが、あのフロア自体はホテルの管理なので、ずっと前からホテルに改善を頼んでいるが、なかなか対策をしてくれない、ホテルに直接強く言ってくれるとありがたい、

と言っていたそうだ。

 

 

 

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最近、日本では「カスハラ」とかいう言葉がマスコミで流布されていて、確かに客は神様じゃないけれど、客を責めるより理不尽な客にどう対応するかのノウハウを考える方が、日本のサービス業の質をさらにアップすることになるんじゃないかなぁ、と思ったりする。

これは蛇足。