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雑話104「クリムトの風景画」

先週、クリムトの作品をNYオークションの注目作品として取り上げましたので、今週はその作品を含めたクリムトの風景画についてお伝えすることにしましょう。


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グスタフ・クリムト「アッター湖畔のリッツベルク」1914-15年

※今年11月2日にサザビーズにて約31億5千万円で落札

装飾的な女性像で知られるクリムトですが、実は風景画の傑作も数多く残しています。


クリムトが風景画を描くようになったのは、愛人のエミーリエ・フレーゲの実家の別荘があるオーストリア中部ザルツブルク近郊のアッター湖畔に避暑のために訪れたことがきっかけでした。


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アッター湖でボート乗りを楽しむクリムトとエミーリエ・フレーゲ

ウィーン大学講堂天井画の問題で深く傷ついていたクリムトは、豪奢で淫蕩で、きらびやかだが、軋轢や策謀に満ちた世紀末のウィーンや、肖像や装飾壁画の注文主とのわずらわしい関係から解き放たれて、ただ描くだけの、純粋な眼と手の喜びに孤独に没頭できる世界に惹かれていったのでしょう。


こうして描かれることになった風景画は、印象派やポスト印象派、とくにホイッスラーや、モネ、ゴッホの作品を参考にしています。


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グスタフ・クリムト「けしの咲く野」1907年

例えば、クリムトは比較的早くから、装飾性を際立たせることのできる正方形のキャンバスを好んで使っていましたが、1899年頃から風景画に関しては常に正方形のキャンバスを使うようになります。


自然の光景を描くのに正方形が望ましいという理由もありますが、これは明らかにモネの「睡蓮」の連作に倣ったものでしょう。


画面のヴィジョンもモネに類似しています。


高いポプラの並木を見上げ、あるいは睡蓮の池をのぞきこむモネのように、クリムトの風景は地平線が極端に低くとられて空が画面の主体となったり、逆に高くから見下ろして画面全体が下草の繁みや樹幹や根本でいっぱいになったりしているのです。


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グスタフ・クリムト「ぶな林」1902年

これらの樹々は、たとえ空を見上げた構図の場合でも梢まで描かれることはありません。


そこには、視野を極度に狭くして、むしろ内面をみつめる人の心理がうかがえます。クリムトは、四角い近接視的な視野に画面を限定することによって、心の静謐を得たかのようです。


しかし、さまざまな作家の手法を使いながらも、クリムトが目指したのは「生命の躍動」と「装飾性」という相反する原理の統一という独自の風景画であり、それらは彼の芸術家としての在り方を示す重要な系譜をなしているのです。