追憶の夜想曲 読了。
↓追憶の夜想曲
弁護士・御子柴礼司シリーズの第2作目です。
先日読んだ 1作目 贖罪の奏鳴曲 が、結構面白かった、というかドラマがアツかったので、あまり時間を空けず、2作目を手に取りました。
本来の私の好みは、アツいドラマよりも、
「驚天動地の大トリック!」とか
「絶対予測不能! 驚愕のラストシーン!!(こういうのは大概、叙述トリック物なのだな、と予想できるので、帯にこういう文句が書かれていたら、実は案外ラストは読める(笑))」
みたいなことが謳われている、娯楽作 なのですが、
別にアツいドラマが嫌いってわけではないのです。
ジャンルとしては、法廷物。
宮部みゆきさんとか、柚月裕子さんとか、同ジャンルでアツいドラマの傑作を世に送り出している作家さんはいらっしゃいますが、中山七里さんが生み出した この弁護士・御子柴礼司は、主人公キャラの特異さとしては、頭一つ抜けていると思う。
何せ、少年時代に、幼女殺害事件を起こし、その後更生し名を変え弁護士資格を取ったが、腕利きであると同時に、裏で法外な報酬を受け取る悪徳弁護士としてならしている人物、という設定。
過去に傷を持つ主人公ってのは、世に多くいれど、幼女を殺害し、その死体をバラバラにし、郵便ポストの上に首を乗せるなどして、日本中を震撼させた 通称:死体配達人 その人である、ってのは、凄すぎる設定。
実際に読むまでは、悪の弁護士が、正義の検察をきりきり舞いさせる「ピカレスクロマン」(でも、結局は弱い人達を結果的に救う、みたいな)なのかと、誤解していました。
1作目のタイトルがもろに 贖罪の奏鳴曲 だったわけで、どうやらこのシリーズは過去に大罪を犯した者の贖罪を描く物語のようです。
御子柴は、強引な手法で、ある殺人事件の被告人の弁護人におさまる。
それは、平凡な主婦である 津田亜希子が、夫 伸吾を刺殺したとみられる事件である。
亜希子は犯行を認めており、しかも動機は「他に好きになった男と一緒になりたかったので、夫が邪魔だった」という身勝手なもの。更には、亜希子にはさしたる資産もなく、高額な報酬は望めない。
対することとなる検事・岬恭平は、名古屋地検では長をつとめ、その後、東京地方検察庁に栄転し次席検事を務める凄腕である。
彼はかつて一度 御子柴と対決し、懲役15年の求刑を執行猶予付き懲役3年に減刑されるという敗北を喫したことがあり、リベンジマッチに燃えていた。
しかも、被告人である亜希子は御子柴に対し、決して協力的な態度ではなかった。
何かを隠しており、弁護人である御子柴にもそれを明らかにしようとしない。
圧倒的不利な条件の中、御子柴は亜希子の弁護を、どのように展開していくのか?
そして、悪徳でならしている御子柴は、何故、亜希子の弁護人を買って出たのか?
1作目である 贖罪の奏鳴曲 に対し、
ミステリーとしての面白さをドラマのアツさが凌駕しており、クライマックスの法廷シーンより、中盤の御子柴が人の心を取り戻していくシーンの方が面白い
という感想を持っています。で、2作目である本作は、全体的に法廷物としての雰囲気が強い作品。
おかげで、個人的には、1作目よりもミステリーとしての緊張感が心地よく楽しめました。
全4章構成なのですが、4章の冒頭辺りで、ミステリをちょこちょこ読んでいる人なら、事件の真相が大体予想がつくと思います。
また、作品全体を貫く、何故御子柴はこの事件の担当に無理やりおさまったのか? という謎も、まぁ、何となく想像は出来ると思います。
でも、「大体予想がつく」「何となく想像は出来る」が、実際に作中で確定するシーンってのは、やっぱり、胸躍るものなんですよ。
で、
・法廷での御子柴の圧倒的不利からの逆転
・大体予想がついていた 筈の、あまりに下衆い事件の真相
・何となく想像は出来ていた 筈だった、御子柴が弁護を引き受けた事情の真相のドラマ
が、ラスト周辺で、怒涛のように……
いやホント、怒涛のように、という表現がこれほどピッタリはまるのも珍しい、と感じられる程の、残りページ数が少なくなってからの、
畳み掛けるドラマチックな真相開示に、大興奮。
面白かった!
ただ、何せ
主人公のキャラがキャラなので、素直に応援できない、という人もいると思います。
ドラマは滅茶苦茶盛り上がりますが、とんでもない悲劇的展開になります。
事件の真相は10人中9人は胸糞の悪さを覚えるであろう、
とんでもなく下衆い真相です。
読後感は良くない という感想の人が多いんじゃないかなぁ~。
え? 私?
あまり時間を空けず、3作目、恩讐の鎮魂曲 を読もうかな、と思っております(笑)。