小さい逃亡者
(1966年/日本・ソビエト/113分)
監督:衣笠貞之助、エドワールド・ボチャロフ
【ストーリー】
健(稲吉千春 )は、ヴァイオリンと絵が得意な10歳の孤児だった。ある日、叔父の信之(宇野重吉)から父親はソ連のモスクワで生きていると聞かされた健は、東京で公演中のボリショイサーカスにもぐりこみ、道化師のニクーリン夫妻(ユーリー・ニクーリン/タチャーナ・ニクーリン)に身振り手振りでモスクワへ連れて行って欲しいと頼み込んだのだった。そして、リュックひとつにヴァイオリを手にした健の、モスクワまでの長い長い旅が始まった。日本(大映)側は衣笠貞之助監督、ソ連からエドワールド・ボチャロフ監督がメガホンを取り、両国のスタッフ、キャストが結集した初の日ソ合作映画。(CinemaScapeさんより)
【かんそう】
大阪九条・シネヌーヴォさんで特集していた
生誕110年記念 脚本家・小國英雄の「仕事」
URL:http://www.cinenouveau.com/sakuhin/oguni/ogunisakuhin.html
で鑑賞しました。
他にもおもしろそうな映画がたくさんあったのですが、鑑賞できたのは結局これ1本でした・・・
日本とソ連の初合作ということもあり、ぜひ観てみたいと思った作品です。
つっこみどころ満載ですが、そんな時は
「だって・・・日本とソ連の初合作ですから」
という魔法のことばを唱えると、あら不思議!
すーっと納得できる映画でございます。
お話は上記にもある通り、10歳の健くんが「父をたずねて何千里?!」な旅(密航ですけど)を日本からソ連までやりとげます。
言うてもまだ10歳の健くん。
そんな密航してモスクワにたどりつけるほどの知恵もなければ機転もききません。
ですが、ただただ父親に会いたいという一心でソ連行きの船にもぐり込み、ソ連では「ぼくモスコに行きたいんだ!!」「ぱぱ、もすこー」・・・と、ほぼこのセリフだけで(?)ごり押しの旅をつづけ、子供ならではの無鉄砲さもありあれよあれよとモスクワに近づいて行きます。
子供だからこそできた旅だったかもしれませんが、意外と度胸が据わっている健くんでもあります。
いろんな意味で「日ソ初合作やねー」と思えるところがありました。
まず日本側の俳優陣が豪華。
私は存じ上げなくて申し訳ないのですが監督も撮影も名の通った方々のようです。
また、日本とソ連双方の美しい風景が堪能できます。
富士山や京都のしっとりとした風景。
しかし日本パートでは美しい風景だけではなく、当時の厳しい世情を映し出している部分もありました。
ソ連パートになると雄大な自然に美しい街並みが画面いっぱいに広がります。
汽車なんてとても迫力がありました!!
ソ連で健くんが出会う人はみなさん優しく、ハラハラドキドキな旅ではあるけれども「この子は絶対モスクワにたどりつくな、うん」という安心感があります。(ここでもあの魔法のことばを使うと有効的です)
この映画でハラハラドキドキしたと言えば「マトリョーシカ」かな。
これもソ連らしい小物ですよね。
日本で出会ったボリジョイサーカスのニクーリンさんからいただくのですが大きな人形から小さな人形まで全部で7つ。
そばにいた女性が辞書を引きながら片言の日本語で「コウフク!コウフク!7(ナナ)コウフク!」と言います。
つまり7つの願い事をかなえてくれる、というのです。
1個目は「ほんまかいな」と、健君は「アイスが食べたい」というどうでもいい願い事をするのですが、すると、すぐにアイスが運ばれてきてびっくり!!
その後は健くんは友人のため、助けてくれた人のため、または自分のためにと使っていくのですが・・・
もう・・・最後の1個になった時は・・・どないするんやろう!!とハラハラしました。
あと、私がおもしろいなーと思ったのはやはりソ連の風景、そして仕事風景、言葉、です。
ロシア語ももちろん随所で話されているのですが、こちらは字幕が一切ございません!!
ので、よりロシア語の響きが耳に入ってきますし、ちんぷんかんぷんなところは健くんの気持ちもこんな感じかなーとシンクロできます。
字幕がなくても特に何も違和感なかったのはその時はもう、自分も健くんと一緒にソ連の旅をしていたからかもしれません。
こうしてモスクワにもたどり着き、さぁ、お父さんは?!となった時にまた展開があるのですが・・・
ここまで例の魔法のことばで何度もやり過ごしてきたのですが、このあたりからラストまでの展開が私には意外性があって面白かったです。
そして、ラストで健くんをかつて育てていたおじさんと、そのおじさんが働く孤児院の院長(京マチ子)が話しているセリフにすごくじーんときました。
「幸せになってほしい人が幸せになってくれる幸せ。見守る幸せ、というものもあると思います。」
なぜ、このセリフが出たのか、というのは映画を観ないとさっぱりではありますが・・・すみません。
この一言のセリフでこの映画は私の中で強く印象に残る作品になりました。
(その後、ラストに院長が言うセリフも好きです)
みなさんの心の中にもこういう想いはあると思います。
家族に対して、友人に対して、恋人に対して・・・
大切な人には幸せになってほしい。
しかしこのようにはっきりとセリフにされると改めて「はっ!」と思います。
このような潜在的な気持ちの掘り起こしができるセリフが書けるところがまさに脚本家の「仕事」なのかしらーと思ったり。
ソフト化はされていませんが、どうも有料チャンネル?では放送されたこともあるようですので、お目にかかれた際、興味があればぜひ。
くうこのおまけ
・ソ連で旅を続けていくうちに一言二言ロシア語を話せるようになっていた健くん。子供は早いわー
うりぼう4つ:
ありがとうございました☆