PRISM ケイティ・ペリー | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


December12KatyPerry


◎PRISM

▼プリズム

☆Katy Perry

★ケイティ・ペリー

released in 2013

CD-0451 2013/12/13


 ケイティ・ペリーの新作を取り上げます。


 もちろん「ベストヒットUSA」を見てのこと。

 1位になったシングル曲Roarがかかる度に小林克也さんが「今の最先端の頭脳を結集して作った」と力説しているのを聞いて、一体どれほどすごいものなのか、試しに聴いてみようと。


 実際、ポップソングとしてよく出来ていて聴きやすくて、すぐに気に入りました。
 力が入っているけれど力んではおらず、ロック側の人間の僕からすれば作り込み過ぎの感はあるけれど、いい意味でのスキがないというか、でもそれは丁寧に作られているということ。

 最先端とはいっても、、今流行りのダンス/ユーロビート系の要素は取り入れつつも、嫌でも心が浮ついてしまうような派手さではなく、あくまでも流行りの音楽の要素としてさらりと入れている。

 ただ、この部分がもっと強いかなと想像していたので、ここが少々意外でした。
 ラップ・ヒップホップももちろんというか通過してはいるけれど、それらの影響をうまく消化して普遍的なポップスにしている。

 消化のいい音楽、ポピュラー音楽としては大切な要素。


 しかし不思議なことに、今の最先端と言われたこの音楽を聴いて、僕は感じました。

 「これは1980年代の音じゃないか」


 思い起こせば、ダフト・パンク(記事こちら) ブルーノ・マーズ(記事こちら) も1980年代の香りがしましたが、今の社会の中心を担う人が1980年代に10代だった、その人たちが聴きなじんだ音楽の波がまた来ている、というのは確かにあるでしょう。

 でも僕は、それ以上に、こんなことを感じました。

 「1980年代にポップスは進化を極めた」

 今の音楽はその後のラップ・ヒップホップとグランジの要素が加わってはいるけれど、それは根幹を変えるものでもない。

 マイケル・ジャクソンやプリンスやマドンナは偉大だったんだなあ、と今にしてあらためて思う。

 

 80年代に育った僕だから、そんなケイティ・ペリーの音楽も素直に受け入れられたのでしょう。


 ただ、ですね、ケイティ・ペリーにはひとつ大きな不満が。

 色気がない・・・

 彼女は真面目で頭がよくて品行方正な人であり、弾けたところがまるでないという印象を受けます。

 人間的には「いい人」なのでしょうね。


 しかし、女の色気をまるで感じない。

 この「色気」というのはセクシー路線という意味ではなく、もちろんエロティックなことをそのまま歌うわけでもない、ちょっとした仕草や声に女性らしさを感じる、ということ。

 ただし彼女の場合、婉曲表現としてもそういう部分はあまり感じない。
 かといって中性的ということでもなく、要はまだ若い(幼い)。
 まあ、来日してきゃりーぱみゅぱみゅと会ったことを興奮気味に話しているような人だから(「めざましテレビ」で見た)、さもありなん、とも。
 断っておきますが、きゃりーぱみゅぱみゅと会うこと自体がどうのこうの言っているわけではなく、あくまでも「色気」の話の部分についてはそう思う、という意味です。
 彼女がきゃりーぱみゅぱみゅと会ったことを、別の機会にも言い回っていたのを見て、よほど楽しかったんだな、僕も日本人としてよかった、とは思います。

 彼女は親日家のようで、アルバムの中でも"Japan(ese)"が1回と"Tokio"が2回別の曲で一度ずつ、計3回も出てきますが、そうなると応援したくもなりますね(笑)。


 もちろん僕だってすべての女性歌手に色気を求めているわけでもないけれど、やっぱり、初めて聴く女性であれば、どういう歌を聴かせてくれるのかな、と、男性アーティストにはないわくわく感があるのも否定しません。

 その部分では、予想というか期待とは違いました。

 ただ、だから若い人が安心して聴けるともいえるのでしょう。


 歌は普通に上手いですね。

 ただ、声にはどちらかというと強い特徴がないかな、アクも癖もない、普通のきれいな女性の声。 


 いずれにせよ、今までにないタイプのスター歌手だと思いましたが、それはネット時代で聴き手とアーティストが近くなっていることに関係があるのかもしれない。

 Katy Perryと普通の英語の名前の割にはエキゾティクな顔立ちをしているのも、何か不思議な雰囲気を感じます。 

 曲はすべての曲が彼女と他の人の共作で、純然たるシンガーソングライターではないけれど、でも曲を書いているのは積極的に買いの部分。

 クリスティーナ・アギレラもそうですが、曲が書けるアイドルがすっかり定着した感があります。

 


 1曲目Roar

 この曲のビデオクリップで彼女はターザンの格好をして足を出しているのですが、そういえばその映像を見ても色気は感じなかったなあ。

 歌メロがすごくいいという曲ではなく、押しの強さが一級品で、聴き手の胸倉を鷲掴みにするような、とにかく印象に残ってしまえば勝ち、というタイプ。

 サビの最後の吠えるところは、若い人が真似をしているのかな、小林克也さんがカラオケで練習する女性が増えるんじゃないかと言っていましたが、そういう部分も話題性が高い。

 まあそれはポップソングの王道といえるのですが、自分で口ずさみはしないけど聴いていて気分がすっとする曲かな。


 2曲目Legendary Lovers

 しかし彼女のこのアルバムがすごいと思い始めたのはここから。

 神話的な響きを持った趣きがある曲で、前半のヴァースは低音で語り部のように歌い、後半のコーラスは声を張り上げて歌う切り替えがいい。

 サビの入口の歌詞が"Take me down to the river"、いかにもアメリカという感じがするのがいい。

 個人的にはこの曲がいちばん気に入りました。


 3曲目Birthday

 アップテンポの明るい曲、よく聴くとタンゴのリズム。

 その跳ねたリズムに乗って前向きになれる曲で、なかなかいい。

 この歌メロは、声が出ないのを無理して口ずさみたくなるタイプかな(笑)。


 4曲目Walking On Air

 これは打ち込み系、ユーロビート系、というのかな、僕はほとんど聴かないタイプだけど、「ベストヒットUSA」を観るようになって、今のアメリカではこの手の音楽が流行っていることが分かり、だいぶ慣れてはきました。

 まあでも、正直これはそれくらいかな、僕が思うことは、流れの中で聴く曲。

 この曲の歌詞に"Tokio"が出てきます。


 5曲目Unconditionally

 前の曲が少し緩くなった、これが今の音なのでしょう。

 この曲のサビで声を張り上げるところが特に、色気がない、と感じたところかな・・・

 ただこれ、聴いていくうちに大好きな曲にはなりました。 

 最後の広がりがある響きがいい。

 

 6曲目Dark Horse feat. Lucy J

 猫の声か子どもの声のような喋るような不思議なキーボードの音の後、男性のラップがケイティを紹介して、ほの暗いミドルテンポの曲が始まる。

 新しいようで、懐かしいようで、80年代と10年代のループに陥ったような曲。


 7曲目This Is How We Do

 これも打ち込み系の人工的な音作りだけど、自分でも不思議なことに、時々そういうのにはまるという例。

 歌もヴァースはラップだし、サビは無機質に聴こえるような歌い方なんだけど、なぜだろう。

 ディスコの名残の80年代という響きでもあるかな。

 内容は、スターになったことを自白するもので、変わった部分と変わらない部分を示しているように思われます。

 歌詞に"Japanese"が出てくるのはこの曲で、"Getting our nails did all Japanese-y"というくだり、「ネールを日本風にやってみたよっ」といった感じでしょうか。

 日本ではネールアートが流行っていることを知っているんだな(向こうでもそうかもしれないけれど)、と。


 8曲目International Smile

 これは90年代だけどエース・オヴ・ベースを思い出した、懐かしい、80年代を通り越して究極にポップになったダンスビート。

 この曲でも"Tokio"が出てきますが、まあタイトルがタイトルだから出てくるのは当然と思いつつ、やっぱり最初に出てくる都市が東京であり、ほんとうに日本が好きなのだなあと。


 9曲目Ghost

 イントロのとろけるようなキーボードが80年代。

 前半はバラードのような雰囲気、サビで弾ける歌メロはまさに80年代のヒットチャートによくあった感じ。


 10曲目Love Me

 テンポは速いけれど、雰囲気としては優しく包み込む感じ。

 「女性歌手」としての彼女はこの路線でいきたいのかな。

 キーボードと歌が呼応しているのが面白い。

 

 11曲目This Moment

 この前まで割と似た感じの今の音が続いていて、退屈ではないけど同じ感じで流れてきていたのが、ここにきてがらりと変わる。

 2曲目とともに最初から印象に残った曲で、僕が最初に思い浮かべたのは、フレディ・マーキュリーの
映画『メトロポリス』のあの曲Love Kills、曲は似ていないけれど全体の雰囲気が。

 盛り上がりという点でもいい、これは2曲目とともにいちばん気に入った。

 

 12曲目Double Rainbow

 雰囲気はバラードといえるミディアムスロウの曲を、裏声を交えながら切なく歌う。

 これもなかなかいい、特にBメロの0'27"のところで最初に出てくる歌メロがなぜか懐かしさを感じていい。

 "Double rainbow is hard to find"と歌っているけれど、僕はこの秋に二重の虹を見た、運がいいのかも(笑)。

 色気がないと何度も書いているけど、この曲は高音になると微妙にハスキーになるところが、彼女なりに頑張っている感じがする、と一応書いておく。

 

 13曲目By The Grace Of God

 こちらはほんとうにバラード。

 感情を込める歌い方は普通に上手いんだけど、若い、ともいえるかな。

 まあ実際に若いですからね、仕方ない部分はあるかも。

 ところで、別のところで彼女がゴスペル歌手だったという情報をいただいたのですが(ありがとうございます)、そのことを頭に入れると、この曲は、曲も歌も曲名に使われている言葉も、なるほど、つながりました。

 なお、僕が買ったのは海外特別盤16曲入りですが、通常盤はこれが最後の曲とのことで、そう言われてみれば最後らしい曲ではあります。


 14曲目Spiritual

 ここからが特別盤収録のボーナストラック。

 Aメロの部分の歌声が少し荒れたように聴こえて、実はなかなか芸が細かい人なのかもしれないと。

 Bメロのきらきらした感じの歌メロは、やっぱり80年代を思い出しますね。

 深夜番組が終わり、テレビが無音画面になり、ラジオをつけているうちに朝を迎えたような曲。

 雰囲気的にサラ・マクラクランに近いですね、そういえば、サラは1990年代だけど。


 15曲目It Takes Two

 落ち着いたミドルテンポの曲で、じわじわと盛り上がる僕が好きなタイプの曲。

 なんとなくピーター・ガブリエルを思い出す、なんとなくだけど。


 16曲目Choose Your Battles  

 ボーナストラックの3曲はみなミドルテンポの割と似たような感じ。

 悪くはない、曲は好きだけど、人によってはここが冗長と感じるかもしれない。

 この曲はリズムが大地の鼓動のようであり、彼女もそれに乗って広がりがある歌を聴かせてくれる。

 アルバムの話はここでしめておきます。


 

 余談というか話は逸れて、近年は最初からボーナストラックが入った特別盤と通常盤が流行り定着してきましたね。

 これ、アルバム聴き人間としてはちょっと困る。


 僕は基本的に、最初は曲が多いほうを買います。

 そのアーティストのCDをそれしか買わない可能性があるなら、少しでも多く知っておきたくて、そのために300円から500円くらい高いのはまったく何とも思っていません。

 ポール・マッカートニーのNEW(記事こちら) のように大好きなアーティストであれば、先に特別盤を買い、後から曲が少ない通常盤を買います。


 アーティストによりけりだけど、通常盤の最後の曲が最後らしくないという例があります。

 ボーナストラックがないと締まらないというか。

 そうであるなら、少ないほうを出す必要はないのではないか、と思う、あくまでも私見。

 時々、ボーナストラックを最後につけるのではなく間に入れるものもありますが、とりようによってはむしろその方がアルバムの流れを考えていると言えるかもしれない。

 まあでも、ボーナスを途中に入れるのもそれはそれでどうなんだろうとも思いますが。


 しかも、以前はボーナストラックは明らかにボーナスという感じの緩い出来の曲が多かったけれど、最近は本編の曲と遜色がないものが多い。

 このアルバムもそうですね、ただし上述のようにボーナスの3曲は似た感じになっているけれど。

 なおこの場合、本編にある曲のリミックスは除いて考えています。


 通常盤と特別盤があるというのは、アーティストサイド(本人とは限らない)がアルバムをどうしたいのか迷っている、と考えてしまう。

 安い盤と曲が多い盤を出すのは、それぞれを買うファンのことを思って、といい面でとらえることもできるけれど、アルバムにこだわりたい僕としては、同時に2枚出すのは中途半端というか妥協案のように思えてしまいます。

 あくまでも僕個人としては、後からボーナスディスクをつけたものを出してもらうほうがありがたい。

 買うものは買うし(その方が多いけど)、そうではないものは、そのアーティストがこれがいいと決断したものとして納得ができるから。


 話が逸れましたが、いい機会だから僕がずっと思ってきたことを書いてみました。

 必ずしも同意はされないでしょうけど、そういう考え方もあるということでご理解ご了承くだされば。


 余談ついでに、しかし通常盤と特別盤が出ることでうれしいのは、大好きなアーティストの大好きなCDを2度買う機会があることですね。

 ポールのNEWも、特別盤を買った後、東京で新たに通常盤を買いましたが、その時のなんとうれしかったこと。

 て、僕はやっぱり、まだポール・マッカートニー渦から抜け出せていないようですね・・・(笑)。

 


 ケイティ・ペリー、真面目な話、いいですよ、聴きやすくて。

 「今の最先端の音」も分かりました。

 買う時、正直、店頭で1分52秒くらい迷ったのですが、なんというか恐かった部分があって、でも買って聴くと予想していたよりは素直に入ってきてほっとしました。


 何でも買って聴いてみないと分からない、僕はそんな人間です。


 もちろん買って失敗することもあるけれど、最近はそれも少なくなってきて、ああ失敗だ、と思うのは新譜旧譜問わず年に5枚はないかな、くらいですね。

 ただ、それも売らない、いつか気に入るかもしれないし、実際にそういうことも多々あったから。


 ああ失敗だ、というか気に入らないCDというのも実は、基本的にすべてのアルバムを集めるアーティストの気に入らないアルバムであることのほうが多いから、なのですが・・・
 それは売るわけにはゆかないですよね、集める意味がなくなってしまう。