◎RANDOM ACCESS MEMORIES
▼ランダム・アクセス・メモリーズ
☆Daft Punk
★ダフト・パンク
released in 2013
CD-0440 2013/9/17
今いちばん家でかけている回数が多いCDを今日は取り上げます。
ダフト・パンクは初めてCDを買って聴きました。
以前は名前をかすかに耳にしていただけで、これも「ベストヒットUSA」のおかげ。
「あまちゃん」がいよいよ最後を迎えますね。
僕は、最初からは見ていなかったし、その時間に家にいないことも多く、録画もしておらず、週に3回見るくらいのもので、だから「何あま」か分からないけれど、好きは好きです。
僕は東京都台東区で育ち、今も弟がそこに住んでいるので、上野の風景がよく見られるのがうれしい。
特に、上野駅から昭和通りを跨ぐ大きな歩道橋は、今でも東京に行くと必ず通る場所だから、次に東京に行った時(多分11月)には、ああここでロケやったんだって新たな思い出通ることになるかと。
このドラマのおかげで今は80年代の音楽が注目されています。
もっとも、そこで語られるのは邦楽限定で、僕は80年代はもう洋楽バカになっていたから、歌謡曲はテレビやラジオや街角で当時耳にしたヒット曲くらいしか知りません。
それでも「あまちゃん」を見ていると、小泉今日子の「木枯らしに抱かれて」、薬師丸ひろ子の「探偵物語」がよく頭の中に流れてきます。
ドラマの中では現代である2010年頃に歌われている「地元へ帰ろう」という曲、これ、80年代打ち込み系ソウルバラード風の曲ですね。
つまり、ドラマの中でも80年代を回顧しているわけですが、そうだよな、80年代のブラックミュージックのヒット曲はああいうの多かったよなって、洋楽好きとしては、ちょっと驚いて、うれしかった。
80年代が注目されるのはやはりうれしいですね。
僕は、このBLOGを始めた頃から、80年代音楽にはこだわってきました。
80年代は僕が洋楽を夢中になって聴き育った年代だし、純粋に今でも大好き、むしろ当時よりいいと思うものが増えているくらい。
80年代は、音楽的には行き詰っていてつまらないと当時から言われていた。
でも人間は生まれを選べないから、何といわれても僕は80年代が好きです。
80年代ブームは実は「あまちゃん」の日本だけの話ではなく、「ベストヒットUSA」を見るようになってから、アメリカでもそういう流れがあるんだなと感じていました。
例えば、もうすっかりファンといえるブルーノ・マーズ、第3弾シングルTreasureのビデオクリップは、80年代というよりむしろ70年代後半のディスコ風のキラキラしたビデオクリップで、思わず笑ってしまった。
当時音楽を聴き育った僕から下10歳くらいの年代が大人になり、子どもができ、社会でも力のある世代になってきたことで、当時の音楽を懐かしむことが情報として発信されやすくなったのでしょう。
だから、考えてみれば当然のことかもしれない。
「ベストヒットUSA」で最近見た中でも極め付けといえる大きなインパクトがあったのが、ダフト・パンクの曲。
Get Lucky featuring Pharrell Williams
ファレル・ウィリアムズがいかにも80年代に遅れて来たソウル歌手といった面持ちで明るく楽しく歌う突き抜けた曲。
その横でギターを弾くドレッドヘアにサングラスの人、あれっ、もしかしてナイル・ロジャース!
とにかく曲がよくて、でも番組では細切れでしか聴けないので、すぐにCDを買うことに。
テレビで見て聴いてレコードを買うのは80年代によくあったことであり、「ベストヒットUSA」を見るようになってまたそれが復活したのは楽しいですよ。
CDを買ってアルバムとして聴くと、これが予想以上に気に入った。
とにかくひたすら楽しい。
僕は以前、KC&ザ・サンシャイン・バンドの記事でこんなことを書きました。
音楽は楽しければそれでいいとは思っていないけれど、でも時々そういう音楽も聴きたくなる。
その時々がまさにこれ。
ダフト・パンクは何も知らないので、ウィキペディアで調べました。
ダフト・パンクはフランス出身のハウス/フィルターハウス/エレクトロ・デュオ。
トーマ・バンガルテルとギ=マニュエル・ド・オメン=クリストの2人組。
ステージではそれぞれを特徴づける仮面をかぶって演奏するということで、ジャケットの仮面は2人のものを半分にして癒合させたものでしょう。
Get Luckyだけを聴くとソウルやファンクからディスコを経てブラコン辺りまでの曲の焼き直しを予想していたけれど、全体としてはむしろ軸足はエレクトロポップ側にあり、そこからソウルやファンクに寄って来た感じ。
最初に思い出したのはトーマス・ドルビー、少しエレクトロ度数(そんなのあるのか?)が下がってハワード・ジョーンズ辺りの英国勢。
と書いて実は、アメリカンロック少年だった僕はそれらはやや苦手で、もっとエレクトロ度数が高い人は聴いていなかった。
だから、人によってはもっともっとたくさん芋づる式に思い出すのではないかな。
ただし、曲ごとに誰それに似ているというのはあるとしても、全体がまるっきり誰かの焼き直しというのではなく、70年代ディスコ以降から80年代のサウンド全体の雰囲気を集めて取り込んで圧縮して再構築したといった響き。
だから、RAM=「ランダム・アクセス・メモリ」なんだ、ふむふむ。
アルバムを聴いていると、80年代のいろいろな要素がランダムに頭に浮かんでくるという仕掛けです。
1曲目Give Life Back To Music
「音楽に命を取り戻せ」と高らかに宣言する曲でアルバムは始まる、これ以上何を言わんかや。
「ジャジャジャーン」といかにもという大仰なイントロで始まり、昔のボコーダー風にエフェクトをかけた声で歌い出すこの曲は、音楽がエンターテイメントであるという意識に則っていて安心して聴ける。
ファンク風のぼこぼこ鳴るギターに胸躍る。
そのギターはポール・ジャクソン・ジュニアとナイル・ロジャース。
うん、いい、これはいい、と最初の一発目から胸倉を掴まれました。
2曲目The Game Of Love
ソウルバラード風の虚しさが漂う曲で、少し向こうにピーター・ガブリエルが見えてくるから不思議。
3曲目Giorgio By Moroder
70年代後半から80年代の顔ともいえるもう一人の大物、ジョルジオ・モロダーをテーマにした曲で、なんと、ジョルジオ・モロダー自身が、いかにして音楽で名を成したかの回顧録を読み上げています。
"My name is Giovanni Giorgio, everybody calls me Giorgio"と語ったところで、ドナ・サマーやアイリーン・キャラやリマールのバックを思い起こさせるエレクトロポップのインストゥロメンタル曲に。
間奏のファンキーなキーボードが、おおっなかなかやるな、と思わせる。
ちなみに、この曲の他の参加ミュージシャンを列記すると、ギターにポール・ジャクソン・ジュニア、ペダル・スティールにグレッグ・リース、ベースにネーサン・イースト、ドラムスにオマー・ハキムと、名うての演奏家を揃えている。
しかもこのような電気的な曲でペダルスティールのグレッグ・リーズというこれまた渋い人選、ダフト・パンクとはいったい何者なのだ、と。
あ、グレッグ・リーズ目当てで聴くとこの曲は失敗しますよ、念のため、基本は電気ピコピコ音楽ですから。
4曲目Within
額にかかった髪の毛から雨のしずくがしたたり落ちてくるような、これまた虚しい曲で、やっぱり「ピーガブ」が見えてしまう。
というか僕の中で「虚しい曲」といえばピーガブなのかな・・・
5曲目Instant Crush
これは演奏にアラン・パーソンズ・プロジェクトが見えてくる。
ダフト・パンクは基本的に本人たちが歌うものは声にエフェクトがかかっていてそこは違うけれど。
Bメロの早口で歌う部分のほろほろと散ってゆくような歌メロがいい。
6曲目Lose Yourself To Dance
ファレル・ウィリアムズの切なげなヴォーカルにナイル・ロジャースのギターが切れまくる「シック」チューン。
タイトルの言葉をこれでもかというくらいに繰り返されては、頭にこびりついて離れない。
まあそれも、「良質の」ポップソングということで。
ベースのネイサン・イーストはここまですべてに参加していて、ああやっぱりいい人なんだなあと(笑)。
7曲目Touch
この曲はMr. Robotoのスティックス、デニス・デヤングが見えてくる。
或いはThe Final Cutのロジャー・ウォーターズも、少しだけ。
歌っているのは、これまたなんとのポール・ウィリアムス。
前半は劇的な重たい曲が、後半はラッパが鳴り響く明るいダンスミュージックへと変貌します。
そう、3曲目のファンキーなピアノでも思ったけど、この人たちはファンキーさが時々強く出てくるのが面白い。
後半は救いの手が差し伸べられたかのようなゆったりとした広がりがある曲に。
オーケストラも少年コーラスも電子音も何もかもが盛り上がった後で、独白風の歌が入って終わる。
8曲目Get Lucky
きたきた!
80年代と今の僕の最大の違いは、ソウルやファンクに目覚めたこと。
その上で80年代風のサウンド、これはもう今の僕のど真ん中の曲かもしれない。
これまたタイトルの言葉を執拗に繰り返す、インパクトがあまりにも大きい曲。
少し前に記事にしたブッカー・TのI WANT YOUにもつながってゆく音でもありますね。
などなど、いろいろと書いたうえでこれは暴言でしょうけど、何も考えたくない、ただひたすら楽しい、もうそれだけでいい!
ところで僕はなぜか、これを聴いているとプリンスのI Wanna Be Your Loverが頭の中でクロスオーヴァーしながら響いてきます。
曲としては決して似てはいないんだけど、でも、僕にとってのエレクトロポップ+ファンクの雛型がプリンスなのかもしれない。
そうか、プリンスこそが80年代を代表する音楽だったんだ、と今更ながらにして思いました。
が、プリンスの話はまた場を改めて(笑)。
とにかく、まだこんなに大好きになれる曲が出てくるなんて、音楽聴きとしては涙が出るほどうれしい。
9曲目Beyond
前半は簡単な歌が入るけれど基本インストゥロメンタル曲。
派手なストリングスで始まる映画音楽風の曲の中で、グレッグ・リースのペダルスティールを探せ、みたいな気もしますが、目立つのではなくサウンドの中で渾然一体となって響いてきます。
10曲目Motherboard
ダフト・パンクのPCの基盤はこんな音楽なんだな(笑)。
前の曲の流れそのままのインストゥロメンタル曲だけど、考えてみればグレッグ・リースをこのような音楽で使ってそれほど目立たないというのは贅沢極まりない。
と、アメリカーナ指向の人が聴くと怒り出すかもしれない・・・
スティーリー・ダンがAJAの録音の際に、ギターのたった1フレーズのために著名なギタリスト何人もに弾かせた、という話を思い出しました。
11曲目Fragments Of Time
「時のかけら」をダフト・パンクがデフラグしたのがこのアルバム、ということなのでしょう。
この曲は演奏が普通のロックバンド形態であれば、ウェストコーストサウンドになると思います。
先ほどからずっと言及しているグレッグ・リースのペダルスティール、ここでは水を得た魚のごとく爽快に鳴り響いています。
日本人ならやっぱり「ベストヒットUSA」の昔のテーマ曲につながっていきますね。
さらにいえば、深夜にその番組が終わった後に放送していた「白バイ野郎ジョン&パンチ」を思い出す。
トッド・エドワーズが歌っていますが、僕はこの人を知らないので調べると、1972年生まれのアメリカのハウス音楽のプロデューサーとのこと。
こんな曲が入っているというのは意外でした。
12曲目Doin' It Right
「地」の部分はダフト・パンクがいつものエフェクト声で歌っていますが、そこに乗っかる爽やかなヴォーカルはパンダ・ベアーなる人。
僕は知らなかったので調べると、1978年アメリカ生まれの音楽家、とのこと。
それにしても、パンダ・ベアーね。
ジェファーソン・エアプレインのグレイス・スリックがパンダの追っかけをやっていて、スターシップ時代に「ベストヒットUSA」で小林克也さんのインタビューを受けていた映像を思い出してしまった(笑)。
なんとなく童謡っぽい曲。
13曲目Contact
最後は宇宙ですよ、宇宙人との遭遇かな。
モジュラー・シンセサイザーの連続音は飛行船の飛ぶ音。
オマー・ハキムのドラムスがここぞとばかりにドラムソロのような派手な演奏を聴かせる。
ドラムスは僕は演奏ができないので正直よく分からないんだけど、このドラムスは引き込まれるものがありますね。
段々と音が大きくなり、高くなってゆくさまが宇宙に飛び出していく瞬間を想像させる。
先日はイプシロンの打ち上げがありましたが、気持ちの高揚感がついにスピーカーを突き抜けてしまったかのよう。
なんですが、音が高く大きくなりマックスに達した辺りで、うちの犬マーサが最初は吠えたんですよね、恐かったのか、異物だと思ったのか。
まあなんであれ、最後は気持ちが行き着くところまで行ってアルバムが終わります。
正直、僕は、これを買うまで、タカをくくっていたというか、どうせそんなもんだろ、と思っていました。
買うのは冒険でした。
もっとも、僕は、自分でお金を出して冒険をしていい音楽とたくさん出会ってきたので、それはそれでいつものことなのですが。
でも、実際に聴くと、「楽しければそれでいい」という音楽をはるかに超越した深みのある音楽だと感じています。
この手の音楽はすぐ飽きるだろうと思っていたけれど、もうそろそろ半月、ぜんぜん飽きていない、むしろ奥深さがまだまだ見えてきています。
それはひとえに、卓越したミュージシャンが作り出す音楽だから。
昔は単なる流行りだったこの手の音楽を、力量のあるミュージシャンで本格的な音楽として作り上げた。
先ほどから僕は「焼き直し」という言葉を使っていましたが、焼き直し以上の新しい音楽といえるのではないかな。
エレクトロポップといういかにも作り物っぽい中に、ポール・ウィリアムスのヴォーカル、ネイサン・イーストのベースそしてグレッグ・リーズのペダルスティールといった本物がしっかりと息づいていて、違和感なく響いてくるのがいい。
何より、これだけの大物が参加している、その名前を見るだけで単純な僕は心が躍りますからね(笑)。
今回の冒険は大成功でした!
こういう出会いがあるから、今の音楽もまた楽しいですね。
そしてやっぱり、これからも80年代にはこだわってゆきたい。
もちろん「ベストヒットUSA」にも。