◎CAN'T GET ENOUGH
▼キャント・ゲット・イナフ
☆The Rides
★ザ・ライズ
released in 2013
CD-0452 2013/12/19
ザ・ライズが素晴らしい!!
しかし、ザ・ライズ、はて!?
スティーヴン・スティルスが新たに結成したバンドであり、これはその初めてのアルバムです。
メンバーは、スティーヴン・スティルス、ケニー・ウェイン・シェパード(Gt)とバリー・ゴールドバーグ(Key)の3ピース。
他、ドラムスはクリス・レイトン、ベースはケヴィン・マコーミックで、実質5人組のバンドとして録音されています。
僕は後の2人は知らないのですが、ケニー・ウェイン・シェパードはWikipediaに独立したページがあり、1977年生まれのアメリカのブルーズギタリスト/シンガーソングライター。
スティーヴンは1945年生まれだから、親子ほど年が離れた若手ですが、若い人との演奏にスティーヴンも新しい刺激が得られたのでしょう。
The RidesはWikipediaではBlues Bandと記されているのですが、その通り、このアルバムはブルージーで骨太なロックを聴かせてくれる。
ハードロックではないけどハードなロックで(そもそもロックというのはハードなものだと思うけれど)、土臭さもあり、多少ウェットな部分もある。
こういう音楽を僕は待ち望んでいた!
まさに僕好みのロック。
別のところの書き込みで、バッド・カンパニーに近い、フリーを進化させたようだというご意見をいただいたのですが(ありがとうございます)、そんな感じの音です。
中心人物が英国人であるバッド・カンパニーはややスマートですが、そこにアメリカ人らしい泥臭さを加えたといったイメージですね。
1曲目Roadhouse
唸りを上げるギターのグリッサンド、重たく沈むブルージーなリズム、確かにこれはフリーを彷彿とさせる。
最初の数秒を聴いて、このハードさに先ず驚き、すぐにこのアルバムは素晴らしいに違いないと直感。
こうしたアルバムとの出会いは年に数枚あるかないか、もうそれだけでうれしくなりますね。
スティーヴンの声の迫力にも圧倒されました。
ヴォーカルの基本とか基礎とかを無視したような、誤解を恐れずにいえばテキトーな歌い方。
音程が外れているとかそういうことではないんだけど、元々ハスキーというか荒々しい独特の声でしたが、そこに渋味が増し、甘いという要素がぜんぜんない、恐いとすら感じる声。
声を分析にかけるとところどころすぽっと抜けた周波数があるのではないかという、隙間だらけの個性的な声。
そんなスティーヴンの声に、ブルーズロックというこの音楽はぴったりはまっています。
曲は3人共作のオリジナル。
2曲目That's A Pretty Good Love
イントロなどに出てくるギターとピアノとベースのユニゾンによるフレーズが強烈に頭に残り、心を煽られ、先ずはそのフレーズを口ずさむ。
ケニー・ウェイン・シェパードが歌っていますが、ハイトーンのやや金切声系、スティーヴンと並ぶと余計に若く感じますね。
ギターフレーズが引っ張り、ケニーの歌が引き継いで、スピード感ある激しいギターソロという流れはまるで陸上の400mリレーを見るかのよう。
曲のクレジットはBryant Lucas / Fred Mendelsohnとなっていますが、申し訳ない、オリジナルの調べがつきませんでした。
でもいかにも1950年代といった趣きではあります。
3曲目Don't Want Lies
ラテンの雰囲気をほのかにまぶしたスロウなリズム&ブルーズ。
大人の夜、といった雰囲気ですが、スティーヴンの野性的な声はいわゆるAORと呼ばれる落ち着いた音楽とはまた違う味わいがあります。
スティーヴンは高音を歌うと若干こぶしが回りますね。
それにしても、70を前にしてスティーヴンのこの哀愁というのは、「現役」なのかな、切なさに妙にリアリティがありますね。
そうなんです、僕はまだその年齢には達していないので、60代以上の人が恋愛を歌う際には、過去のことを思い浮かべるのか、それとも「現役」なのか、どうなんだろうと考えます(悩みます)。
まあ、そうではないにしても、表現者としてはやはり想像力と実体験を反映させることでいかようにもなるのでしょうね。
ケニーのギターは、泣きが入りつつもどこかドライな感覚で聴かせてくれます。
3人のオリジナル曲。
4曲目Search And Destroy
イギー・ポップのカヴァー。
ということを実は、僕は、ブックレットを見て知った、つまりオリジナルは聞き覚えがありませんでした・・・
タイトルを見てどこかで聞いたなあと思い、実際イギーのオリジナルのCDも探すとあったのですが、要はろくに聴いていないということですね・・・
ケニーが歌っていて、やはりスティーヴンの世代ではないようですね。
そういえばポール・マッカートニーもUNPLUGGEDで、自分より下の世代であるビル・ウィザースのAin't No Sunshineを歌っていたのも意外といえば意外でした。
それはともかく、これはいいですね、と今更ながら素の感想(笑)。
アルバムではいちばん速くて破壊力がある、でも不思議とこの雰囲気になじんでいる彼らのセンスに脱帽。
5曲目Can't Get Enough Of Loving You
スティーヴンが10代の頃に聴きなじんだであろうスタイルのワルツのリズム&ブルーズ。
スティーヴンの荒々しくもハスキーな声も、この曲では最大限に生かされている。
母音ではない単語の切り方、例えば"room"を「るーむぉっ」、"moonlight"を「む~んらいとぁっ」と、強調するように歌った結果余計な音がついてくるのが、これじゃ悪いのかと開き直ったみたいなカッコよさがある。
2番のサビの前の叫び声が、盛りがついた雄猫の大ボスみたいで、ほんと、恐い。
やはりギターの低音弦がよく動く、ほんと、僕はこういう曲には無条件で体と心と頭が反応してしまう。
ギターソロもこういう音楽のお手本にして最高峰のもの。
トレイ裏の写真を見るとギタリストは2人ともストラトキャスターを持っていますが、この曲のギターは特にそれらしい音に聴こえます。
3人のオリジナル曲で、トレイ裏の紙には曲名がCan't Get Enoughと記されていますが、ブックレットにはここで書いたようになっていました。
まあ、アルバム表題曲だからそれも頷けますが。
6曲目Honey Bee
マディ・ウォーターズのカヴァー。
ブルーズバンドである以上、やはり御大の曲があるしまりますね、落ち着く、ほっとするというか。
ケニーが歌っていますが、悪くないけど、スティーヴンの声でも聴きたかったかな。
書くことが少ないですが、そこはほら、マディ・ウォーターズですから(笑)、じっくりと聴きたい。
7曲目Rockin' In The Free World
このアルバムのある意味目玉ともいえるのがこれ、ニール・ヤングのカヴァー。
スティーヴン・スティルスとニール・ヤングはライバルであり、仲が良いとか悪いとかいろいろ言われてきているようですが、こうして取り上げているということは、根幹には敬意がある、その上での複雑な関係であることが分かってほっとしますね。
ただ、正直、最初に聴いた時は、ジョークというかおちゃらけというか、あるいは自らを茶化す意味で取り上げたのかと思いましたが、でもこの真面目さは決してそうではない、と。
もうひとつ注目したいのは、1989年のFREEDOMからの曲と、割と新しいアルバムから取り上げていること。
まあ、それとてもう四半世紀も前のことになりますが、70年代だけではなくニール・ヤングは変わらずずっといい曲を作り続けていたことを、スティーヴン自身もあらためて気づき、それを歌うことでメッセージとして広めたかったのかもしれない。
オリジナルより気持ち速いテンポで、リズムが隙間なく畳み掛けてくる、真っ直ぐで立てノリのロックンロールに仕上がっていて、ニールのオリジナルより男らしい、男臭い仕上がり。
8曲目Talk To Me Baby
エルモア・ジェイムスのカヴァー。
ところがこれが面白い。
エルモア・ジェイムスの曲といえば誰もがまるで判を押したようにスライドギターが強調されるものだけど、ここでは敢えてそのスライドギターを排除し、多少スライドギターのニュアンスは残しつつも普通にギターで弾いている。
慌ててオリジナルを聴くと、やはりあの「うぉうぉうぉうぉ~ん」というスライドギターはちゃんと入っている。
ある意味冒険ともいえるカヴァーですが、しかし僕は最初からエルモア・ジェイムスの曲だと分かった。
それくらい彼の曲は歌メロも個性的であり、歌としての素晴らしいことを言いたくて、スライドギターは排除したのかもしれない。
一方でオリジナルでも小躍りするピアノが目立つんだけど、それはここでもやや控えめだけど入っている。
スライドギターが好きな人にはかなり物足りないだろうけど、僕はこの勇気を大いに買いたいです。
ケニーが歌っていますが、マディ・ウォーターズとともに本格的なブルーズを若手が歌うのは面白いし、ブルーズが聴き継がれてゆくことが分かってほっとしますね。
そしていかにも楽しそうにブルーズを演奏するケニー、そうか、この人の音楽もまた聴いてみないと。
9曲目Only Teardrops Fall
今回の僕が選ぶベストはこれ、3人のオリジナル曲。
男の哀愁を、決して臭くならず、べたっともせず、強がりを交えつつ吐露していくスティーヴンには英雄的な姿があります。
歌の最後、演奏が終わってひとり呟くように歌が残るところはぞくぞくしてしまう。
ギターがまた最高で、それだけでも旋律がある曲として聴けるし、スティーヴンが落とした涙を上手く拾い上げて音として表したかのように情感こもっています。
ああ、ほんとうにブルーズロックはいいなあ、と心の底から実感。
素晴らしい1曲に出会えました。
10曲目Word Game
アップテンポで押しが強い曲だけど、よく聴くとリズムがボサノヴァ?
「言葉遊び」という曲名のごとく、まるで怒ったように早口でまくしたてるスティーヴン。
歌メロがあるにはあるけれどほとんど喋り、でもかといってラップというほどでもない。
Bメロで演奏に置いて行かれそうなところを力で寄り切ってなんとかついていく姿には鬼気迫るものすら感じる。
とにかく力で押し切る一方の曲で突き放されたようにアルバムは終わりますが、心地よい、しかし少し熱いものが心の中に残ります。
スティーヴンひとりが書いた曲で、調べるとどうやら再録音のようですが、オリジナルと目されるアルバムを僕はまだ聴いていないことが分かりました。
スティーヴンはすべてはまだ買っていないから・・・
ともあれスティーヴン・スティルスという人はなんと凄みがある人なのだろう、というのがこのアルバムが終わっての感想です。
今年下半期でいちばんいいアルバムと断言します。
上半期ではボズ・スキャッグスがいちばんだったけど、どちらが上かな、というくらい。
でも、上半期、下半期以上に、今年1年でいちばんよかったアルバムはもう決まっているのですけどね(笑)。
それはともかく、ブルーズロックが大好きでよかった、と心の底から思えるアルバム。
そういうのも久しぶりだけど、これは当たると大きいですね。