◎MIDDLE MAN
▼ミドル・マン
☆Boz Scaggs
★ボズ・スキャッグス
released in 1980
CD-0400 2013/5/3
ボズ・スキャッグスの9枚目ということになるスタジオアルバム。
ボズ・スキャッグスの新譜MEMPHIS(記事こちら )がいいですね。
今でもほぼ毎日聴き続けていて、もうすっかり愛聴盤となりました。
そうなると過去の作品も聴き直すのが僕の常。
今回は、このアルバムを選びました。
僕はボズ・スキャッグスを自分の意志で聴いたのはもう40歳近くになってからだけど、このアルバムにはリリース当時の強烈な思い出があります。
1980年といえば中学1年、洋楽はまだ聴いていなかったけれど、父が購読していた「FMファン」は、家にあるのでなんとなく目を通すようになっていました。
隔週刊の「FMファン」はジャンルを問わず新譜のジャケットが表紙を飾りますが、ある時の表紙がこのアルバムでした。
「かぁ~っ、なんだこの助平野郎は」
はい、当時思ったことをほぼそのまま言葉に表してみました。
中学生だからそろそろそういうことに興味を持ち始めるわけで、多分、嫉妬心も織り交ぜになっていたのでしょうね(笑)。
その印象が強いので、今でもこれを「女性膝枕アルバム」と呼んでいます(笑)。
ちなみにその女性は赤い革製のレオタード姿、裏ジャケットで見ることができます。
あ、それだけです、失礼しました、音楽自体の思い出ではなくて。
ボズ・スキャッグスは御多分に漏れずSILK DEGREESを最初に聴いたわけですが、それまでのイメージとは裏腹に、確かにストーンズなどに比べるとソフトだけど決して「軟(やわ)」ではないと分かり、すぐにSONYから出ている国内盤リマスターを買い揃えました。
その中の1枚がこれ。
SILK...よりはだいぶまろやかになっているけれど、やっぱり、芯の部分はちゃんとしたロックで結構気に入り、以降ぽつぽつと聴いてきています。
その時買った中ではいちばんよく聴いているかな。
80年代のアルバムを聴くといつものように思うのですが、当時は聴いていなくても、80年代サウンドはどこかしら懐かしさを感じる、これもまさにそうでした。
今回は国内盤ということで、帯にある文句を書き出してみます。
なお、改行は引用者が施しています。
*****
繊細なメロディー、光るセンス、ボズの魅力が堪能できる傑作アルバム。
1980年作品。
まさに都会的な洗練。
ハイ・センスなポップ・ロック・アルバムといえばボズといわれるメロディアスでリズミックなサウンドが縦横に溢れる内容。
ジェフ・ポーカロ、レイ・パーカーJr.、デヴィッド・フォスターなどおなじみのミュージシャンやサンタナをゲストに、磨き抜かれた粋をこらしたアルバム。
ビルボード・アルバム・チャート8位、シングル「ブレイクダウン・デッド・アヘッド」15位、「ジョジョ」15位。
*****
レコード会社も力が入ってますね、読んでいるこちらも微妙に照れてしまう・・・(笑)。
傑作、というのは、そうですね、名盤と呼ばれているかどうかは分からない、多分名盤なのでしょうけど、傑作のほうが表現が合っているような気はします。
なお、このアルバムはプラティナディスクを獲得しています。
1曲目Jojo
先ほど「助平野郎」しか思い出がないと書きましたが、この曲は確かに聞き覚えがありました。
多分、Jojoという言葉の響きに引かれたのだと思いますが、それがビートルズのGet Backに出てくる「人物」だと知ったのはその後のことでした。
同一人物かどうかは分からない、Jojoは寂しがりやだったようだから。
デヴィッド・フォスターが曲作りに加わったキャッチーな曲で、イントロからきれいに流れてゆくギターが心地よい響き。
でも、繰り返し、決してソフトなだけじゃない、むしろ強さを感じるのがいい。
Bメロで歌メロが崩れて収集がつかないまま「じゃんじゃん」と強引に戻しているのが僕はちょっと気になるんだけど、ジョージ・ハリスンはこの辺の崩し方と戻し方がうまいんですよね。
一方でこの曲で上手いのは、"Jojo dig those spinning lights"と歌う部分、サビでいいのかな、最後のほうではボズの歌が"Jojo"の後で途切れて後ろのコーラスとばらばらになるところが、まさに男女が離れ離れになってしまったようではっとさせられる。
プロが商売として歌う曲では、こうした小さな芸、フックというか、それも大切だと思います。
ボズの声って、高音が幾分頼りなげに聴こえるんだけど、そこが女性には受けるのかな(笑)。
あ、でも、ボズを聴いていたのは男性も多いだろうから、こうすれば女性にもてるというイメージを表したものかもしれない。
2曲目Breakdown Dead Ahead
今回帯の文句を読むまでこれがシングルだったとは知らなかった。
シャッフルにのってせり上がってくるイントロからブレイクしてボズが歌い出す、後期(中期?)ウェストコースト・サウンドの典型のような明るい曲。
でも、シングル曲としては歌メロがいまいち弱いかな、だから帯を読むまで気づかなかったというくらい。
しかし、それでも15位まで上がったのは、当時のボズには勢いがあった証拠でしょうね。
3曲目Simone
これがね、僕はこの中でいちばん好きなんですよ。
イントロからほの暗く微妙にラテンっぽい雰囲気。
ボズは元気よく歌い出すけれど、哀愁を帯びた歌メロに負けてしまい、裏声を交えたりしながら切なさが増してゆく。
"Oh, Simone to hold you"と歌メロがすっと上がるところが最高にいい。
ボズはしかし、だからといって感情をあまり込めすぎず、気丈に振る舞いながら、要はカッコつけて歌うのがやっぱりクールでいい。
薄くアコーディオンが入ったり、軽いキーボードの音などもラテン趣味、
アルバムを聴いていて、シングル曲や有名な曲以外に好きな曲が見つかると、そのアルバムへの気持ちが大きくなりますよね、これはそんな曲。
♪お~しも~んとっほぉぅどゆぅ、と、アルバムを聴き終わるといちばん印象に残っていて、ついつい口ずさんでしまいます。
4曲目You Can Have Me Anytime
アップテンポな曲が3曲続くのは最初は意外な展開でしたが、4曲目でついにバラードが。
そうなんですよね、僕は、ボズ・スキャッグスという人はこういう曲ばかり歌っているものだと思っていた(笑)。
これは「トワイライト・ハイウェイ」と邦題がつけられ、当時トヨタ「クレスタ」のCMに使われたということで、そういえばどこかで聞いたことがあったかな、と思いました。
もうこれは必殺泣きのバラード系、そういう曲が好きな人にはたまらない、なんて、僕も好きだけど(笑)。
5曲目Middle Man
ちょっとプログレ風、トト風とでもいうのか、大仰なキーボードとギターによるイントロで始まり、ボズがちょっと切れたかのように、或いはおどけるように歌う強い響きの曲。
このタイトル、"middle man"は「中年男」ではなく、「仲介人、ブローカー、中道の人」という意味だそうで。
もしかして、誰かと誰かの間に入る、つまり、恋人がいる女性を寝取ってしまおう、という歌なのかな・・・
よほどの自信家、でも女性には優しくしているようで。
6曲目Do Like You Do In New York
R&B的色合いが濃い重たい響きで、普通の人がこの流れでこれをやると浮いてしまう、というか沈んでしまうのではないか。
そこを同じトーンで聴かせてしまうのは、やはりボズはいつも心にR&Bを忘れていなかったということなのでしょう。
これはライヴでやると、インプロビゼーションに発展したり、長くなって盛り上がるのではないかと。
ボズ、かっこいいですね。
あ、ここでは純粋に音楽的なことで言ってます(笑)。
7曲目Angel You
あはは、80年代キーボードがイントロから炸裂、何か微妙にこっ恥ずかしいのは80年代育ちだから(笑)。
歌メロはなかなかよくて、明るく始まるけど3小節目ですぐに裏に入っていく、この歌メロの潜り込み方が僕は好き。
女声コーラスも張り切ってますね、そりゃ天使と呼ばれるのだから。
ボズの声はここではかなり力んでいて、実は細かい声の芸がある人なんだなと。
8曲目Isn't It Time
意外にも2曲目のメロウな曲(6曲目はテンポは遅いけどメロウではない)。
もちろん、アダルトロックがすなわちメロウとは限らない、それは僕の偏狭なイメージなのでしょうけど、でも、メロウな曲が意外と少ない、とは、当時好きだった人は感じたのではないかな、人によっては不満を。
音は軟(やわ)ではないけれど、気持ちよく聴かせる、というサウンドは、ボズにして初めて成し得たものなのかもしれない。
どの曲も必ずギターに聞かせどころがあるのがギター弾きにも訴えてくる部分でもありますね。
9曲目You Got Some Imagination
結局最後もアップテンポの、しかもいちばん派手に盛り上がる曲。
曲の節目節目に出てくる「じゃんじゃんじゃんじゃん」というきめのフレーズで劇的に心が動く。
まさにサウンドの「粋」、そんな響きで、気持ちが豊かになりそう。
羽目を外したようなボズの歌い方も、なんというか面白い。
でも、新譜ではこの歌い方はしていない、というかこの高い声はもう出ないのかな、出さないだけかな。
そうか、ボズの場合、若い頃は高音が多少ぎこちなかった分、年齢を経て高音を出さなくなったところで、いい枯れ方ということになるんだな、ふむふむ。
同じ単語からの単純な連想ですいません、ホール&オーツのYour Imaginationという曲を思い出しましたが、そう思ったところでボズが近しく感じられたのでした。
いやあ、ごめんなさい。
30歳を過ぎるまで、ボズのことをよく知らないまま避けていました。
これだけがつんと来るロックだったなんて。
若さってある意味恐ろしい。
ほとんど否定していた過去を消し去るつもりはないですが、その分、今はボズ・スキャッグスが大好きと言っています。
まあしかし、自分が年を取ってそういう年代に追いついた、ということなのでしょうね。
実際、今の僕は、20代の頃よりHR/HM系を聴く頻度ががくんと落ち、一方でソウルが増えてきたから。
結局、音楽を聴くにはそれにふさわしい年齢がある、という考えがますます強固になったのでした。
自分の年齢を受け入れながら、素直に、音楽を楽しんで聴いてゆきましょうか(笑)。