MEMPHIS ボズ・スキャッグス | 自然と音楽の森

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自然と音楽の森-March29BozScaggsNew


◎MEMPHIS

▼メンフィス

☆Boz Scaggs

★ボズ・スキャッグス

released in 2013

CD-0383 2013/3/29


 ボズ・スキャッグスの新譜を今日は取り上げます。


 2月にリリースの情報に接した際には、ブルーズのカヴァーアルバムと聞いていました。

 しかし実際に聴くと、ブルーズには限定されていない、ソウルも含めてR&Bを広く取り上げており、1970年代の曲や白人の曲もあって、幅広い選曲がされています。


 全体的な音の響きは、メンフィスといえば思い出すブッカー・T・&・ジMGズをはじめとしたまさにスタックスの演奏隊といった趣き。

 軽快なギターのカッティング、間のよいキーボードとブラス、タイトで厚すぎない演奏の心地よさ満点の響きです。


 演奏は、ボズ(Vo、Gt)、プロデュースも務めるスティーヴ・ジョーダン(Ds)、最近はセッションでよく名前を見るレイ・パーカー・ジュニア(Gt)、そしてエリック・クラプトンとの仕事でもおなじみウィリー・ウィークス(Bs)がバンドとしての演奏を聴かせてくれます。

 南部系のキーボード奏者として知られるスプーナー・オールダムも数曲に参加、他、多数のゲストが参加しています。

   

 ボズ・スキャッグスのヴォーカルは、気持ちではなく質的にいえば黒っぽさがあまり感じられないものだと思いますが、無理に声を作らずに自分らしく歌うことで、タイトで軽快な演奏をさらに心地よく響かせています。


 ボズ・スキャッグスは昔はサンタナと張り合うほどのギター野郎だったそうですが、今回のアルバムは、ジャケットでメイプルネックのストラトキャスターを構えているように、ギター弾きとしての自分を再発見したかったのでしょう。

 裏の写真では、ストラトを弾くボズの横に同じ色のテレキャスターが立てかけてあって、ギターへのこだわりを強調しています。

 灰色系のメタリックの渋い色、名前を知らなかったのでFenderのColor Chartを調べると、「ショアライン・ゴールド」 "Shoreline Gold"という呼び名であることが分かりました。

 ゴールドなのか、でもひとまずこれで覚えました。

 カヴァー曲集ということで、僕自身もよく知りたく、いつものように1曲ずつ調べてみました。

 ところが、このCDはブックレットがないため作曲者のクレジットがこれだけでは分からず、Wikipediaでも当該のページがない曲があり、HMVの曲目検索で漸くたどり着いたものもあるなど、すべてを調べ上げることはできませんでした、どうかご了承ください。


 1曲目Gone Baby Gone

 穏やかでまろやかなソウルで幕を開けます。

 抑えた歌い方が、さらっとやっているようで、これこそがボズのヴォーカリストとしての年季の入ったところだと思います。

 ヴァースの最後で歌メロがふっと上がってBメロに流れてゆくのがいかにもソウルといった味わい。


 2曲目So Good To Be Here

 これはアル・グリーンの曲、しかも僕が割と最近買ったアルバムLIVIN' FOR YOUに入っています、が、覚えていなかった・・・

 うん、言われてみればアル・グリーンらしい曲(笑)。

 アル・グリーンは、僕が洋楽を聴き始めた頃はもう宣教師になり音楽活動はしていなかったので実感がないのですが、シールのSOULでも出てきたように、当時は一般の人気もミュージシャンへの影響力も絶大だったのでしょうね。

 

 3曲目Mixed Up, Shook Up Girl

 この曲は分かりませんでした。

 ぽこぽこと湧くように鳴る高音のギターは、ブラコンやいわゆるAOR的なものだけど、全体の響きはそれほど緩くないタイトな音で、そこが今のボズ・スキャッグス。

 歌メロもすぐにつかみやすい、キャンディのようにポップな曲。

 4曲目Rainy Night In Georgia

 今回、最初から曲が分かった2曲のうちの1曲。

 ブルック・ベントンが1970年にヒットさせたもので、ロッド・スチュワートもソウルのカヴァーアルバムSOULBOOKで歌っていました。

 ボズのこれは、雨だけど妙にからっとした独特の雰囲気。


 5曲目Love On A Two Way Street

 なんとなく聴いたことがあるなあ、というくらいで、Wikipediaでは出てこなくてHMVで曲目検索をかけたところ、グロリア・エステファンがカヴァーアルバムHOLD ME, THRILL ME, KISS MEで歌っていました。

 グロリアのそのCD(国内盤)のライナーを見ると、ザ・モーメンツのヒット曲ということで落着。

 ボズの歌い方は、どことなく寂しい響きで、その寂しさが自然と湧いてくる、そんな感じ、そこがいい。

 歌メロもいいし、いつしかよく口ずさむ曲になりました。

 グロリアのそのアルバムも、僕が出会ったカヴァーアルバムのかなり早いものであり、近年は大物のカヴァーアルバムが続く中また聴き直してみようと思っていたところで、ちょうどよかった。


 6曲目Pearl Of The Quarter

 曲目検索の結果、スティーリー・ダンの1973年のアルバムCOUNTDOWN TO ECSTASYに同名の曲があると分かり、急いで棚からCDを引っ張り出して聴くと、同じ曲でした。

 へえ、スティーリー・ダンね、ちょっと意外な選曲、白人だし。

 でもスタックスのハウスバンドは白人も黒人も関係なかったから、その思いも受け継いでいるともいえるでしょう。

 スティーリー・ダンは、家にCDが全部あるけど・・・というもので、この曲を知らなかったくらいだし、でもR&B色が濃くて玄人受けする音楽というイメージがあったので、意外という思いはすぐに消えました。

 オリジナルはまだ若かったせいか、ちょっとへらへらした歌い方が気になりましたが、逆ですね、ボズの抑えた歌を先に聴いたのでそう感じたのでしょう。

 "Singing voulez vous"とフランス語混じりで歌うのがなかなか洒落ていて、こう言ってはなんだけど、アメリカ人でもそういうセンスがあるんだってちょっと驚き、さすがはスティーリー・ダン。

 でも、フランスの支配下にあったNew Orleansが歌詞に出てくるから、驚くことでもないのか。

 ジム・コックスのピアノによる乱れ咲くような間奏がいい。

 フランス語も含め、この中ではいちばん印象的な曲かな。

 半分まできて、ボズのヴォーカルにすっかり魅了されていることに気づくはず。 


 7曲目Cadillac Walk

 これはオリジナルの調べがつきませんでした。

 唸りというほどではないけれど、おとなしい曲が続いた後でギターの音色が少しハードになり音圧が上がって迫ってくる感じは鳥肌もの。

 ボズの声も上ずってきて、メリハリが効いている、アルバムで一番盛り上がる曲。

 大人のカッコよさ、嵐山光三郎曰く「不良定年」、そんな響きの曲。


 8曲目Corrina, Corrina

 僕が知っていたもう1曲、ボブ・ディランのTHE FREEWHEELIN' BOB DYLAN、あの「風に吹かれて」が入ったアルバムに収められた曲。

 しかし調べるとこれはトラディショナルソングで、原題はCorrine, Corrinaであることが分かりました。

 それにしても、なんて優しい声だろう。

 落ち着いた演奏の中で、ボズの声がしみ渡ります。


 9曲目Can I Change My Mind

 これはWikipediaにページがありました。

 タイロン・デイヴィスの1968年のヒット曲とのことで、僕は初めて聞いた名前ですが、いずれオリジナルも聴いてみたい。

 途中で女性の語りが入っていて、どこかしら都会的な響きの、いかにもソウルといった趣きの曲。


 10曲目Dry Spell

 こちらは曲目検索でサン・ハウスのDry Spell Bluesが入ったCDが幾つか当たり、それがオリジナルかと思ってさらにその曲の歌詞を調べたところ違いました。

 また、ミーターズにも同名の曲があり、うちにCDがあるので聴いてみたところ、そちらはインストゥロメンタル曲でどうやら違うようです。

 ケヴ・モがスライドギターで客演しているのがうれしい、本格的なカントリーブルーズに仕上がっています。


 11曲目You Got Me Cryin'

 ううん、やはり分からず、曲目検索をかけるとCHICAGO BLUES UNIONというCDが出てきたので、シカゴブルーズの曲なのかもしれない。

 よくありそうな曲名だけど、曲目検索でも数点しか当たらないのは意外、歌詞によく句として出てくるだけかな。

 いずれにせよ本格的ブルーズ路線が続きますが、ボズの歌はブルーズらしいというものではなく、あくまでもボズはボズで通しているのが自然な響きであり、そこがなんともほっとするところ。 
 ゆらゆらと揺れる声が、ボズ流ブルーズということかもしれない。


 12曲目Sunny Gone

 最後の曲は、曲目検索でもこのアルバムしか出てきませんでした。

 ということはオリジナル? カヴァーアルバムにオリジナルを1、2曲入れるのは、昨年のポール・マッカートニーもグレン・フライもそうだったから、ありうる話。

 AOR(AC)のボズのイメージにつながる、旋律が美しくしっとりとした、寂しげな、都会的なバラード。

 素晴らしい。

 曲自体もだけど、いかにもアルバムの最後に余韻を残しまくるこの流れが最高にいい。

 歌詞の中に"guitars play"と出てくるのも、ギターへのこだわりを最後まで感じさせるところ。

 充実したアルバムだなあ、と、独り言を呟いてしまう、そんなアルバムが幕を下ろします。 



 ブルーズ、R&B、ソウルと、ブラックミュージックへの距離感、接し方も、人により時代により変わる。

 このアルバムは、ボズ・スキャッグスというミュージシャンにとっての原点回帰の音なのでしょう。

 それはかつてやりたかった音であり、今の音でもあります。

 

 もちろん、メンフィスのロイヤル・スタジオにて録音されていますが、ここは、アル・グリーン、チャック・ベリー、バディ・ガイ、オーティス・ラッシュ、ソロモン・バークからロバート・クレイ、ロッド・スチュワート、キース・リチャーズそしてジョン・メイヤーまで新旧多くのアーティストが録音している場所。

 場所へのこだわりが真っ直ぐに音に反映されています。

 すっきりしていてきれいな響き、サウンド面、音の良さは特筆すべきもので、この音を聴いているだけでも心地よい。


 Wikipediaにページがない曲がほとんどということは、渋めの選曲といえるのでしょうけど、ボズが歌うとまったくもってボズの世界、そこは安心できます。


 ボズのヴォーカルには深い味わいがあって、これは、ヴォーカルアルバムでありギターアルバムであるという贅沢な1枚。

 お酒が好きな人なら、夜に自宅でひとりでグラスを傾けつつギターを弾きながら聴きたいアルバムに違いない。


 正直いえば、買う前の期待値、それほど低くはなかったのですが、それよりもはるかに高かった。

 ボズ・スキャッグスは10年くらい前から聴き始めたばかりですが、今この瞬間はボズのいちばん好きなアルバム、それくらい気に入っています。