(イメージ画像は後日貼りたいと思います)
昨年の話である。
乗っていた路線バスが道を間違えた。
曲がるべき道を曲がらず、直進してしまったのである。
1日に何本かだけ迂回する、というルートだったので、習慣的に直進してしまったらしい。
「あれ?」と思ったが、車内ではとくに声を上げる人もいなかった。
下車するつもりの乗客がいなかったということもあるのだろう。
ほどなくして、運転士さんが車内アナウンスをした。
道を間違えたので戻ります、といった内容だった。
それに対しても誰も何も声を上げず、車内は静かだった。
バスは比較的広い道を右折し、それなりに広いエリアで引き返してから今来た道を戻り、また通常ルートに戻った。
当然ながらその後のバス停到着は遅れたものの、混乱はないままに終点に着いた。
今さらながら、自分も元路線バス運転士である。
熱海の街を8カ月ほどではあるけれど走った。
幸いなことに、道を間違えたことはない。
ただ、先輩運転士たちからは失敗談は多々聞いた。
そんなときは当然、本来のルートに戻らなくてはいけない。
間違える場所というのは大体決まっており、あそこで間違えたらあそこでUターンできる、みたいな話は休憩時間などに耳にしたものだ。
路線バスはさまざまなルートを辿る。
同じ行き先でも経路が違う系統もあり、運行表を何度も確認しながら運転しなければいけないのだ。
間違えても戻る術を知っていれば、最終的にはどうにかなる。
それを知っているだけでも心強いものである。
決まった道を走らなければいけない路線バスに例外のルート走行は許されない。
しかし、独り歩む人生にはそもそも決められたルートはない。
脇道に入りたければそれでいい。
そもそも目的地すらはっきりしない我が人生である。
なんとなくでも進むべきと思う道に向かって蛇行し続けるのが生きるということなのかもしれない。
その日、道を間違えた運転士さんは内心相当に動揺したはずである。
しかし、それを見せることもなく淡々と走り続けて修正したのはプロの気概にちがいない。