こんにちは。
民法だけはできるだけすべての条文を見るようにするつもりでやっております。
ご紹介した条文+過去問等の予習等でふれた条文とで随分ご紹介してきましたが、まだ半分くらいでしょうか。
今日は第三編債権、第一章総則、第二節債権の効力の第一款債務不履行の責任等を見てみたいと思います。
それでは、早速。
債務不履行とは?
これは読んで字のごとくですが、債務者が履行期に債務の履行をしないことを言います。
売買契約をしたのに、時期が来ても何もしないってことですね。
この債務不履行はいくつかの種類があります。
履行遅滞=履行が可能であるにもかかわらず、債務者が履行期に履行をしないこと
履行不能=履行することが不可能になったこと
不完全履行=債務者の果たした義務が契約内容に照らして不完全であること
それぞれ、何となくですがイメージできますね。
それでは条文を見てみましょう。
履行遅滞
(履行期と履行遅滞)
第四百十二条 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
これは、日付を確定して契約した場合の規定です。
1月31日に支払う
↓
期限の到来で遅滞となる
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。
受験に合格したら車を買ってあげる
↓
債務者が期限の到来を知った時(合格を知った時)
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
引渡期日を定めずに売買契約を結んだ場合
↓
債権者が請求をした時
ここまで見たところで履行遅滞の要件を確認しましょう。
1.債務が履行期に履行可能であること
2.債務が履行期に遅れたこと
3.債務の履行遅滞が債務者に帰責性があること
4.履行期に遅れたことが違法であること
履行不能
履行が不可能であること
↓
契約後に二重譲渡で移転登記をした場合
契約後に目的物が滅失した場合
履行不能の要件です。
1.履行が不可能であること(契約成立後=後発的不能)
2.履行不能が違法であること
履行が不可能かどうかの判断は社会通念によって判断されます。
先ほどの二重譲渡の場合、相手が二人となる訳ですが、一方に移転登記をしてしまうと確定的に所有権が移転してしまうので、もう一方には履行することが不可能になりますよね。
不完全履行
履行が不完全な状態である
↓
目的物の数量が不足している場合
目的物に瑕疵がある場合
不完全履行の要件です。
1.履行が不完全であること
2.不完全履行がなされたことが違法であること
ここまで見てきたところでポイントが一つ。
不可抗力(自然災害)では、債務を履行できなかった場合は債務不履行は成立しません。
条文を一つ飛ばして見ますね。
(履行の強制)
第四百十四条 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
この条文の第1項から第3項までは債務不履行があった場合の強制執行について規定している条文で、自身で自力救済が出来ない代わり(民法では、自力救済が禁止です。)に、国家(裁判所)が代わりに強制履行するということを規定しています。
第1項は直接強制です。
これは、債務者の意思にかかわらず、国家権力が債権の内容を直接的・強制的に実現する方法です。
具体例(与える債務)
金銭の支払=財産を差押え競売し、代金より配当する
物の引渡し=執行官が売主より目的物を引取り、買主に引渡す
2 債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
3 不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。
第2、3項は代替執行です。
これは、債務者以外のものに債権の内容を実現させて、その費用を国家権力が債務者から取り立てる方法です。
具体例(為す債務)
他人が代わりに行えるもの=自動車を修理する
最後は間接強制です。
これは、債務を履行するまでの間、裁判所が債務者に対して一定の金銭の支払い義務を課すことにより、債務者を心理的に圧迫し、間接的に債権の内容を実現させようとする方法です。
これ、実は民法には規定が無いんです。
民事執行法と言う法律の規定です。
(間接強制)
第百七十二条 作為又は不作為を目的とする債務で前条第一項(代替執行)の強制執行ができないものについての強制執行は、執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。
2~6 略。
具体例
金銭債務以外の債務
↕
離婚した元配偶者と子を面接させる義務
(違反一回、1万円を元配偶者に支払う) など
これら3つの方法は、債権者が自由に選択して申し立てることができます。
債権者は、債務者に対して最も効果的な方法を選んで裁判所に申し立てれば、早く債権の実現が図れる可能性がある訳です。
ただ、履行の強制により債権の内容を強制的に実現しても、なお損害が発生している場合があり得ます。
4 前三項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。
第4項です。
前三項の規定であっても、損害賠償の請求は妨げられません。
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
履行遅滞に基づく損害賠償(遅延賠償)が認められるための要件は以下の通りです。
1.債務が履行期に履行可能なこと
2.履行期を徒過したこと
3.債務者に帰責事由があること
4.履行しないことが違法であること
5.損害が発生していること
6.履行遅滞と損害との因果関係
履行不能に基づく損害賠償(填補賠償)が認められるための要件は以下の通りです。
1.履行が後発的に不能になること
2.債務者に帰責事由があること
3.不能なことが違法であること
4.損害が発生していること
5.履行不能と損害の因果関係
不完全履行に基づく損害賠償(追完又は填補賠償)が認められるための要件は以下の通りです。
1.不完全な履行があったこと
2.債務者に帰責性があること
3.不完全な履行が違法であること
4.損害が発生していること
5.不完全な履行と損害の因果関係
要件はある程度同じですので、違うところだけチェックしましょう。
言葉の確認のために辞書です。
帰責事由=非難されるべき原因。(故意に履行しない、不注意で履行しない)
追完=必要な要件を具備しないために、一定の法律効果を生じない行為が、のちに要件を備えて効果を生じること
填補=不足を補うこと。埋め合わせ。補塡。
(損害賠償の範囲)
第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
第1項は、通常の事情によって生ずべき損害は、相当の因果関係の範囲内にある限り無条件に認められます。
第2項の特別の事情によって生じた損害は、債権者が予見可能性を主張し立証すれば認められる損害です。
債権者が主張立証しなければなりません。
(損害賠償の方法)
第四百十七条 損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。
金銭は誰でも入手できる、損害の発生は金銭的評価ができるという点で金銭での賠償が公平と言うことです。
(過失相殺)
第四百十八条 債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。
この条文は、債権者側の過失を考慮に入れることで、当事者間の公平を図るって意味です。
(金銭債務の特則)
第四百十九条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
この条文は金銭を目的とした債務について、損害賠償をするときの特則です。
1.金銭ですので履行不能はなく、履行遅滞のみ認められる。
2.債権者は、損害の証明をすることなく損害賠償請求をすることができる。
3.損害賠償できる金額は、法定利率により計算される。
(約定利率による定めがある時はそれに従う)
4.当事者間で遅延賠償の定めをした時は、その予定に従う。
5.不可抗力によることを証明できても、責任は免除されない。
第3項の「不可抗力をもって抗弁とすることができない」の規定は、自然災害などにより交通が遮断された場合で、支払いに行くことができず履行遅滞になったような場合でも損害賠償責任は免れないということです。
同じ不可抗力であっても、先ほどの債務不履行と損害を賠償することでは違うと言うことです。
(賠償額の予定)
第四百二十条 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。
これは、債権者に有利ですね。
賠償額の予定がある場合、債権者は、債務不履行があったという事実を証明すれば、予定賠償額を請求することができます。
損害の発生や金額を立証する必要はありません。
また、第2項は賠償額の予定をした場合でも、引き続き履行の請求をすることもできるし、解除権を行使することもできると規定しています。
第四百二十一条 前条の規定は、当事者が金銭でないものを損害の賠償に充てるべき旨を予定した場合について準用する。
これは、私的自治の原則から当事者同士で金銭以外のもので損害賠償の予定をすることもOKですよって規定です。
(損害賠償による代位)
第四百二十二条 債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する。
債権者が損害賠償として物や権利の価額の全部の支払を受けた時
↓
債務者(支払者)に所有権が移転する
のちに物や権利が復活しても、債権者はその物の返還や権利を主張することができないということです。
損害を賠償することで債務者が債権者に代位し、権利を行使することができます。
長くなりましたが、先に飛ばした最後の条文を見てみましょう。
(受領遅滞)
第四百十三条 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。
この受領遅滞とは、債務者が債務の弁済をするにあたり、債権者の協力が必要な場合があります。
その時に債権者が協力をせず、債務者が履行できない状態にあることを言います。
受領拒絶と受領不能が書かれてます。
この場合、債務者の履行の提供があった時から債権者は遅滞の責任を負うと規定しています。
受領遅滞の要件です。
1.債務者が債務の本旨に従った弁済の提供をすること
2.債権者が受領拒絶または受領不能の状態になること
この場合の効果を確認しましょう。
1.債務者は債務不履行の責任は負わない
2.債務者は供託することにより債務を免れることができる
3.債権者は同時履行の抗弁権を失う
4.危険負担が移転し債権者主義になる
5.費用が増加したときは債権者負担になる
6.債務者の履行により約定利息は不発生となる など
今日は普段より一段と長~くなりました。
お疲れ様でした。
今日のところはここまでです。
んでまずまた。
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