ケルン歴史史料館続報・マールブルクのアーキヴィストたち | 緑の錨

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歴史家の山本尚志のブログです。日本で活躍したピアニストのレオ・シロタ、レオニード・クロイツァー、日本の歴史的ピアニスト、太平洋戦争時代の日本のユダヤ人政策を扱っています。

マールブルク文書館学校で学ぶ教師と学生たちが、ケルン市立歴史文書館の崩壊に際してケルンに赴き、史料の回収・修復作業に参加していることについて、以前にも書きました。ここで紹介する記事は、『フランクフルト・アルゲマイネ・ツァイトゥング』のもので、文書館学校の学生たちの報告をとりあげています。

「もういちどケルンに援助に赴くことは学生たちにとって切実な問題であると、スザンネ・ライクは言明しました。それ故に、この週末、彼女と学友たちはもう一度ケルンに出発するつもりです」(引用は下記記事から)

Ein Stück Vergangenheit wiedergeben können (『フランクフルト・アルゲマイネ・ツァイトゥング』HP2009年3月23日、ヤニーネ・リヒター記者による記事)

ケルン市立歴史文書館が崩壊してから、二十日が過ぎています。この事件でも、善後策について語られることが多くなっています。しかし、この事件で史料の回収作業は数ヶ月続くことが見こまれています。多くの記事で語られているような都市の瓦礫との格闘は、まだまだ終わらないのです。そして、それから史料を修復して再整備する地道な作業が続くことになります。このような作業に従事するアーキヴィストたちを、視野にいれておくのは重要なことであるように思われます。

これはドイツの問題であるとともに、日本の問題であるだろうと思います。このような事態と、このような事態に対処する人々に、我々は共感できるかどうかが問われているのです。

文書館とアーキヴィストという言葉が意味するところはあまりにも広範です。

官公庁の現用文書だったものを文書館に移管して公開する作業を行うのもアーキヴィストでしょうが、古くから現代に伝わる史料を護り、それを整理して、公開して、こうした史料について情報を提供するという任務を遂行するのも文書館とアーキヴィストなのです。

つまり、アーキヴィストは行政の過程のなかで文書を扱う仕事であるとともに、過去と直接に対峙する専門職でもあります。

日本のアーキヴィストとアーカイヴズに関する議論を見ると、前者のことに比重が置かれすぎているような印象を受けます。けれど、ケルン市立歴史文書館のような事態に際してあきらかになることは、前記記事の標題にあるような「過去の破片」を護ることが、アーキヴィストの第一の責務であり、それはいつも容易であるとは限らないということです。それは実際には、もとより日本でも、さまざまな災害に際して、すでに何度も提示されている問題でもあるのです。